《つかこうへい正伝》 1968~1982
長谷川康夫著 新潮社
劇作家つかこうへい氏の伝記が出版された。
書いたのは、当時劇団つかこうへい事務所の役者だった、
長谷川康夫である。
これまで、つかこうへい氏の生き様を描いた書物はなかった。
生前も、亡くなってからも。
出版の祝い会を、一昨夜、行きつけの飲み屋でやった。
往年のつかこうへい事務所の役者スタッフが集まった。
白髪、はげ頭の集団である。
その割に、目だけがランランと光っている。
その面々が口々に云う。
「よくぞ、ここまで、書いてくれた!」
つかさん以上につかさんを知っている長谷川ならではの書だ。
私が、つかこうへい事務所に所属していたのは、
24才から29才までの5年間。
たった5年であるが、
その何倍もの濃厚な演劇的な時間を過ごした気がする。
「あなたにとって、青春とは?」
質問をされたら、この時期だったと答えるだろう。
実際、つかこうへい氏に会っていなかったら、
芝居はやめていただろうし、役者にもなっていなかった。
その辺りの描写は、本の中で、長谷川が語っている。
「長谷川」と作家を呼び捨てにしているのは、
彼はイシマルと同い年なのだ。
苦を共にし、お馬鹿も共にした仲間だ。
一昨日も、夕方ビールの乾杯を始めて、
ハッと気付くと、二軒目の飲み屋で、夜が明けかけていた。
20代の頃からそうだったように、
大勢いた仲間が、次第に帰ってゆく中、
最後まで残るのは、いつも私と長谷川と根岸季衣(としえ)の3人。
酒が強いのか、話が尽きないのか、3人は帰らない。
その当時、新宿で、夜を明かすと、
そのまま小田急のロマンスカーに乗って、箱根まで遊びに行き、
次の日の朝まで、飲み明かしたものだった。
長谷川が語る。
「今回大勢の方に取材したのだが、その中で、
昔の事を、ホントによく覚えているのは、イシマルだ。
それも、くだらない事ばっかりで、本に書けやしない」