鹿児島県の南の端に、
坊津(ぼうのつ)という港町がある。
鹿児島市内から向かうと、
カツオで有名な枕崎のさらに先に、その町はある。
日本の漁村が、ほとんどそうである様に、
平地が少ない。
坂道に家を建て、くねって続く細い道は、
最後には、崖で終わっている。
その分、目の前は、豊かな海だ。
黒潮にのって、様々な魚が、やってくる。
南海の荒れた海に乗りだす漁師たちは、たくましい。
その荒くれ達が、年に一度、大暴れする祭りがある。
《十五夜》
祭りの名前が、十五夜。
9月の満月の夜、数日前から準備してきた大きな荒縄を、
町内に張り、摩訶不思議な祭りが始まる。
突然、大人が子供を追いかけたり・・
長さ60mもある大綱の綱引きをやったり・・
大綱の直径は、30cmもあろうか、
何十人の大人子供が、引き合う。
もちろん坂道で。
これが、延々と続くのである。
やっと、綱引きが終わったところで、祭りは佳境に入る。
広場に移動し、綱で、真ん丸をつくり始める。
10数人ほどが綱を握り、円になって走り回る。
今や、若者が減ったという事で、
いい大人(50代60代当たり前)が全力疾走している。
これが、又、延々続く。
例えるなら、
100m全力走を、何十本も繰り返すようなものだ。
「昔しゃ、朝までやりよったがのう」
元漁師のおっちゃんが、
頭から湯気を吹き出しながら語る。
ちょうど満月が天頂に登った頃、
綱が、地上にまん丸に描かれ、祭りは終わる。
おっちゃんに、お尋ねしてみた。
「十五夜を、漢字一文字で例えると何ですかネ?」
答えはすぐに返ってきた。
『男』!