《お神楽》おかぐら
九州では、秋の声を聞き、年の暮れが近づくと、
お神楽が催される。
私の大分県でも、祭りといえば、お神楽が舞われる。
神代の長いお話を、芝居風の踊りにしたのが、
お神楽だ。
その中でも、宮崎県の高千穂の
夜神楽(よかぐら)は、
さすがに天の岩戸が或ると言われるだけあって、
その規模と、本格度が高い。
20ほどの村で、それぞれの夜神楽がひらかれている。
その中の、ある村の夜神楽を観にいった。
まだ明るいうちから、お面をかぶった男たちが、
参道をたっぷり時間をかけて、
踊りを舞いながら、練り歩いてくる。
そのたっぷり度は、信じられないほどの
たっぷりだ。
やがて、夜神楽の会場(神楽宿)に着く。
そこで、まずは、腹ごしらえが・・
これには、神楽を舞う側も、観る側も、
炊きだされた御馳走をほおばる。
これから夜通し行われる神事に向けて、
体力をつけておかなければならない。
やがて、かがり火が炊かれ、薄暮がおとずれると、
♪~ドドンドドン~ぴ~ひょろ、チンチキ~♪
鐘太鼓に笛が、単調な調べを奏ではじめる。
まずは、一番目の舞・・《彦舞》だ。
こわもてのお面を付けた彦が、登場し、
厳かに静かに、踊りは始まる。
(今夜は、こんな感じで、
たっぷりいきますよ~)
長い夜を感じさせる舞だ。
さあ、ここから、33番の舞まで、延々続く。
1つの舞に20~30分かかる。
33番《雲下し》が終わる頃には、
すでに夜は完全に明けている。
十数人の踊り手がいるとはいえ、並々ならぬ体力が要る。
舞いの振り付けも、33番分覚えなければならない。
笛太鼓も、その過酷さゆえに、代わる代わる。
すでにボロボロになっている筈だが、
そこは、神事。
品格を決して落とさない。
そして、なにより大変極まりないのは、
観ている客だ。
寒風吹きすさぶ中、縁側を開け放した広間で、
ただただ、まぶたをおっぴろげている。
(帰りたけりゃ、帰ってもかまわない)
12時間以上の観劇など、ギリシャ悲劇でもあるまい。
ゆえに夜中にも、食事タイムがもうけられている。
踊られている流石の猛者たちが、
終わったのち、しみじみと語っていた。
「3日は足腰立たんでのぅ」