鶏のモモ肉を食っていた。
下北半島のような形をした、旨そうな骨付きモモ肉だ。
手で持つ部分に、化粧紙が巻いてある。
あるいは、銀紙がその役目を担っている。
さて問題はその紙に隠されている部分だ。
生前では、その先に、指があった筈。
という事は、そこは、足首にあたる部位である。
これまで、クリスマスやパーティや誕生祝いで、
骨付きモモ肉を、皆が食している風景を、
さんざん見てきた。
しかし!
かなりの食通でも、あの化粧紙で持たれた部分を、
食べている人は、まず見た事がない。
その随分、手前で、フィニッシュしているケースが多い。
まるで、「この部分は、食べてはいけない」と、
注意勧告をされているかのように、
皿の上に、捨て置かれている。
スイカの白い部分まで歯型を付けると卑しい、
と軽蔑されるように、
鶏の場合、化粧紙で隠した部分が皿の上から無くなると、
その人の品格に関わると、睨まれている。
「あら、まさか食べちゃったんじゃないでしょうネ」
奥様のねめつける様な視線が痛い。
ここに、《
化粧紙隠し部分肉大好き人間》が登場する。
私だ。
下北半島の上部の方も好きなのだが、
本当の狙いは、握って持っているその最下部なのだ。
ちょっとグラグラする最も下の部分に想いを馳せながら、
食べ進んでいるのだ。
本当は、一番最初に、化粧紙を取っ払って、
噛みつきたい衝動に駆られるのだが、
もしそれをやると、持つ場所がなくなり、
手がベトベトになってしまう。
そこはひとつ大人になって、
最後の最後に、楽しみをとっておくのである。
肉なんて殆どない、
皮と筋とコラーゲンだけで出来たその物体。
歯をあてれば、コリッと軟骨がはがれる。
飴の如く、口中でしゃぶり続ければ、
かぐわしい香りがいつまでも楽しませてくれる。
鶏の旨みはこの部分に極まれり!
まれに・・非常にまれに・・
大勢の立食パーティー会場の、捨て置かれた皿の上、
剥がされた化粧紙の横に、
小さな骨が残されている事がある。
私の目が輝く・・
「おお~この会場のどこかに、同志がいる!」