彼の国がぶっ放したロケットが、沖縄先島諸島の上空を通過した。
まさにその時、私は、その真下の海上にいたのである。
石垣島から小浜島まで、渡船が運んでくれる。
30分の行程だ。
真っ青な海を眺めながら、ぼんやりしていた時だった。
突然、周りにいる大勢の携帯がいっせいに、警報音を発した。
ピピピピピ
「緊急警報発令!」
政府から連絡が届く。
Jアラートである。
大きな地震が起きた時と同様の警告である。
「先島諸島方向にミサイルが発射されました」
確か、こんな文面だった。
確か・・・と言うのは、一度読んで携帯を操作すると、
その文章は二度と見ることが出来ない。
データに残らないのだ。
渡船は、走り続ける。
我らは空を見上げる。
青い空と白い雲が広がり、海面には、しぶきが飛んでいる。
風速8mの風が吹いている。
携帯が鳴らなければ、美しい海と空に過ぎない。
船が出発した石垣港の向こうに、パックスリーが空を向いていた。
やがて、小浜島に着いた。
すると、島内有線放送が、スピーカーで呼びかけている。
「打ち上げられたミサイルが、上空を通過している模様です」
確か、こんな言葉だった。
確か・・・と言うのは、音が青い空に吸い込まれて、
よく聞こえなかったのだ。
しかし、何も知らずに、この放送を聞いたとしたら、
驚くだろうな。
うちの父親が生きていてこの場にいたなら、
きっと大騒ぎしたに違いない。
「スワッ、戦争が始まったゾ!」
南の島は、おだやかだった。
観光客も、島の人たちも、空を見上げることもなく、
笑顔で、島の中に散っていったのだった。
朝日を浴びる パックスリー