《イサキ》という魚がいる。
一年を通して、よく釣れる魚だ。
成魚は、20cm~45センチほど。
刺身にして旨く、熱を通しても美味しいので、
魚好きには、たまらない魚だ。
《イサキ釣り》
スポーツ新聞の釣り欄に、通年紹介され、
常に釣れている。
一人、20~50匹の釣果がある。
50匹を上限としている船が多く。
釣りすぎを戒めている程の魚だ。
実際、一人少なめに見積もって、25匹釣ったとして、
船に10人乗っていれば、ひと船250匹。
そんな船が、10艘もいれば、2500匹。
この状態が連日続くのである。
そんなに釣って、大丈夫なんだろうか?
当然の心配だ。
ところが、この何十年、同じ状態が続いている。
イサキは、常に大勢いる。
ある学者の言によると、イサキは個体数が減ると、
埋め合わせをする能力が高いのだそうだ。
正しいかどうか定かでないのだが、
新聞欄では、常にイサキ大漁の文字が揚がる。
10年ほど前、九州は長崎の沖、
五島列島で海に潜ったことがあった。
たった一軒あったダイビングの店に立ちより、
潜りを請うた。
「沈船にいきましょう」
って事になり、船で向かった。
「潮の流れが速いから、30分で揚がるヨ」
猟師をやっているイントラのオイチャンに導かれ、
ドッポ~ン!
水深20mを超えた辺りに、沈んだ船が、ユラリと現れる。
その周りの魚の多さに驚いた。
多さなんてもんじゃない。
魚が邪魔で、沈船はおろか、海底も、横も見えやしない。
その大部分を占めていたのが、イサキだ。
体の横に黄色い線が入っている。
水中で見ると、黄色い魚だ。
何千か、いや、万か・・・
壁のようになった大群に巻かれているような錯覚に陥る。
オイチャンの親指が、上を指している。
「あがれ」の合図だ。
しかし、上にもイサキの腹が、大量に白く光っている。
徐々に空気の泡と共に、
海底まで垂らしたロープを伝い、水面に向かう。
ズボッっと音がしたかどうか分からないが、
イサキの群れを抜けた。
下を見下ろすと、イサキの背中の群れが広がっている。
水中に現れたイサキの大地だ。
まるで、そこが、海底に見える。
うごめく海の底とも言える。
水深10m辺りで、海流が激しく流れ始めた。
まるで川だ。
両手でロープに掴まっていると、体が鯉のぼり状態になる。
こんな激流で、ここのイサキたちは暮らしているのか?
こりゃ、相当身が締まっているに違いない。
海面に到達する前に、五島列島の
イサキの刺身の味に想いをよせ、マウスピースを噛みしめていた。