《オコゼ》
虎魚とも書く。
名前がまず、変だ。
語感が可愛さから、かけ離れている。
コゼの前にオという丁寧語が頭に付いているように思われるが、
たぶん違う。
敢えて、切るならば、<オコ ゼ>
と切るのが正解だろう。
いや、むしろ、<オ コ ゼ>と分離した方がすっきりする。
底モノ魚独特の形をしている。
腹が平たく、ヒレだの背びれだのが、やたら広がっている。
そしてなんといっても、そのヒレの毒だ。
何気なく手で触り、チクッと刺されれば、
一週間は、
野球グローブのように張れた手を目にすることになる。
数年前、与論島のビーチでシュノーケリングをしていた時だった。
水深2mほどの所に、このオコゼを発見した。
「捕まえよう!」
思い立ち、いったん陸に戻り、
ベッドの枕にかぶせてあるカバーを持って行った。
オコゼは、その場でじっとしている。
息を止め、フワリと潜り、
上から、オコゼにかぶせてゆく。
暴れれば、そのトゲが、枕カバー越しに私の手に刺さる。
「ええいままよ!」
かぶせた。
暴れた。
運がよかった。
刺されなかった。
その夜、刺身と唐揚げが、友人たちに振る舞われた。
ここで、オコゼのおかげで作った格言を披露しよう。
《運だけで生きていくのはやめましょう》