《ウナギ》
天然ウナギが築地市場に出荷されている。
それほど貴重な、いや、希少な生物として扱われている。
その昔、50年ほど前、
大分県の海辺で海水浴をしていた時だった。
砂浜に座り、何気なく、砂を掘っていたところ、
体長5センチほどの黒いクネクネした小動物が見つかった。
なんだろうと更に、掘り進むと、次から次に、
そいつが出てくるではないか!
ドジョウに似た動きで、チョコチョコ逃げ回り、
砂に潜りこんでゆく。
近くにいた大人に尋ねると・・
「ウナギの稚魚じゃぁ、逃しちゃれ!」
もちろん捕まえるつもりはないのだが、
鰻の稚魚が砂の中に潜んでいる事実に驚いた。
大人になって、スペイン料理でその稚魚を食すメニューを発見するが、
当時の子供のけんじろう君には、砂でクネっている鰻に、
<必死なる生>を感じたのである。
数日後・・・
父親と鰻釣りに出かけた。
河川が海に流れ出す、河口で釣り糸をたれる。
ミミズを針にかけ、ウキもつけずに放り込む。
すると、すぐさま、グイッとあたりがあり、
隊長50cmほどの立派な鰻がおどりあがってくる。
どうやら鰻の寝床に釣り糸をたれたようで、
次から次にかかってくる。
ぶっとりした鰻を親子で40匹も釣り上げた。
ニコニコ顔で家に凱旋すると、
切り出し包丁を研いだ母親がソデをまくっている。
新聞で一匹つまみあげ、マナイタに頭をキリで打ち付ける。
誰に教わったわけでない手さばきで、捌いてゆく。
時折、ヒョイと口に放り込んでいるのは、心臓だそうだ。
身体に良いんで、さばく者の特権だという。
さばいてはいないが、ひと心臓呑ませてもらった。
後年いただいたスッポンの心臓に似ていた。
なんやかや・・・
40匹分の鰻の蒲焼ができあがった。
夜の宴は、鰻ざんまい!
天然ウナギという意識はない。
(当時は、養殖ウナギはほとんど流通していなかった)
家族で、必死に喰らいついた。
朝食にもウナギが出た。
次の夕食にも出た。
それ以来、一才年上の兄は、ウナギが嫌いになった。
今だに、ウナギは食べない。
しかし、なぜか私は、食べ続けている。
次男坊とは、食いすぎたくらいで、嫌いになったりしない。
残したりもしない。
殺生したんだから、全部食べてあげなければ・・
頭と肝は焼き、骨はセンベイにして、おやつに食べた。
次の週末、又ウナギ釣りに行こう!
と父親を誘ったら、しばらくやめようといなされた。
(そういえば、オヤジも長男だったナ?)