《トラフグ》
トラと言われているが、虎の縞模様をしているようには見えない。
ただのマダラだ。
フグの中でも、とりわけ身体が大きい。
フグは、丘にあがると、骨折することがある。
漁師さんが獲って来たフグを板の箱にいれて置いておくと、
生命力があるフグは、長い間生きている。
それどころか、時折暴れる。
身体をクネらせ、板にその身をぶつける。
海の中ならば、海水しかハタク物がないのだが、
陸上の木の箱は固い。
ボキッ
骨折するのである。
その身は、固くて弾力があるが、
骨は以外に柔らかい。
フグ鍋を食べた方なら、身をしゃぶった記憶があるだろう。
骨の周りの身をしゃぶる際、骨にもかぶりついてみる。
柔らかいというより、しなる骨だ。
鯛の鯛という骨をご存じだろうか?
肩甲骨あたりにある可動式の骨だ。
その形が魚の形に似ているので、鯛の鯛と呼んでいる。
魚には、すべてその骨がある。
サバのサバ。
ブリのブリ
鰻の鰻。
だいたいの魚は似た様な形をしている。
ところが・・・フグだけは、異様な形状なのだ。
丸に近い。
穴もひとつではなく3つくらい開いている。
海中での、ユニークな泳ぎ方で獲得した骨だろうか?
残念ながら、私の手元に、その骨の標本はない。
他の魚の骨は、たくさんあるのに、フグだけない。
なぜか?
いつの間にか、食べちゃうのである。
骨が柔らかく砕けてしまい、いつのまにか胃袋におさまっている。
その昔、50数年前、大分の海岸にトラフグが大量に出現した。
父親が、船を出し、たくさん釣ってきた。
母親が捌いた。
危ない時代だった。
友人知人をよんだ。
トラフグ三昧をしようとしたらしい。
刺身にフグ鍋。
「さあ、食べよう!」
箸を振り回す父親の言葉に、皆が伸ばす箸がつまんでいるのは、
豆腐やネギばかり。
大皿に綺麗に渦を巻いている刺身にいたっては、
父親がくずしているだけだ。
なるほど、この人は親切な人だが、周りが見えない人なんだな。
子供ごころに、刻まれた。
たぶん私は似ている。
私が、フグをご馳走するときは、
豆腐とネギばかり食べてください。