「人を待つのは構わないが、待たすのは嫌いだ」
はっきり言う方がいる。
私もその一人だ。
「午後3時に、時計台の前で」
決めた直後から、タイムテーブルが動き出す。
逆算される時の刻み。
待たすのが嫌いな人は、最低5分前に現場に着こうとする。
その時間計算に、電車の到着と乗り換え、発車のタイムを、
頭の中で計算する。
その乗り換えの度に、プラスの余分な時間をため込んでゆく。
5分で済む乗り換えに、10分を計上してゆく。
10分で済む、移動に、15分を当ててゆく。
それらのプラスのタイムがどんどん加算され、
現場に到着した際には、5分前ではなく、
20分も、30分も前に着いたりする。
待たすのが嫌いな人は、この状況でも慌てない。
当然の時間配分だと、うなづいている。
約束の時間がきても、腕組みを外さない。
約束の時間が過ぎても、微動だにしない。
「やあ~待ったぁ~?」
20分も遅れてやってきた、
待たすのが平気な人は、
基本的に、喋りが能天気だ。
「わりい、わりい~」
わるいの、るを、りと発声する。
そして・・・
「ところで、あさってなんだけどサ~」
すぐに話題を飛ばしてしまう。
生き方も気楽だ。
待たすのが嫌いな人は、こんな相手にあこがれてしまう。
(いつか、人を待たせてみたい・・・)
静かに思いをたぎらせている。
しかし・・・
できるかどうかは、わからない。
できない可能性が高い。
ゴルフにイップスという病気がある。
グリーンでパターを持った手が動かなくなる症状だ。
主に、プロが重度のプレッシャーのセイでかかると言われている。
待たすのが嫌いな人が、あえて、人を待たそうと画策した場合、
このイップスに似た症状が起こると思われる。
(あいつ待ってるだろうナ、でも急いじゃダメなんだよナ)
(早く着いてるだろナ、でも、急いじゃいけないんだよネ)
(ううぅぅ~~約束の時間が近づいてきたぁぁ~~)
はっと気づくと、時間前に到着しているのだった。