《自撮り棒》 おお流行りである。
その中でも、自撮り棒を使って映像を撮る、究極のモノは何だろう?
つまり、自分でしか撮れないモノだ。
コレはクイズだと考えて頂きたい。
撮ろうと思っても、他人には絶対撮れない状況を想像しよう。
第三者が、映す場所にいられないケースである。
どこだろう?
宇宙?
違う。
宇宙とて、完全防備な宇宙服を着た同僚がカメラを回せば・・
よし、あんまり引っ張るのもつまらないので、
正解を教えよう。
答えは、吉田勝次さん。
彼は、洞窟探検家である。
それも、究極の探検をしている。
日本をとび出し、世界の洞窟の新たなる新洞を発見している。
新洞とは・・
誰も潜ったことがない、地底の穴に突き進むのである。
「20センチ四角の穴だね」
吉田さんが、両手で輪っかを作って穴の大きさを表現してくれる。
頭がやっと入るかどうかの穴だ。
その穴の先がどうなっているか、全く分からない。
ひょっとすると、行き止まりかもしれない。
ひょっとすると、抜けた先に、
驚くべき素晴らしい発見があるかもしれない。
「しかも、その先が、下り坂なんですヨ」
下り坂?
無理やり進んだとして、最終的に行き詰った場合、
帰りに、足の方向に
小さな穴をバックしなければならない。
登り坂で・・
そんな新洞に潜る時、吉田さんが、撮影機材として、
やり始めたのが、自撮り棒だ。
先に、ゴープロを付け、小さな明かりを点灯し、
片手で持ち、自分の進む前方のギリギリの隙間に差し挟んでゆく。
自撮り棒付きゴープロが、
これまで見たこともない映像を記録してゆく。
あまりの狭さに、ヘルメットも脱ぎ、
顔を横にして、
耳をザリザリ削りながら、
5ミリ前進、5ミリ前進と、にじっている姿を記録している。
時折、静かになって、じっとしている。
肺の中の空気を吐き出しているらしい。
胸郭を狭めて、身体を小さくしているのだ。
この映像を、私が見られるのは、なぜか?
彼が、穴を突破して、
我らが世界に生還してきたからだ。
吉田勝次。
明日も、パスポートが汚れるそうだ。