「ラザニアが食べたい」
イタリアの方に、何が食べたいかと質問され、
いちもにも無く出た答えが、
ラザニアが食べたい。
小麦粉をどうとかした食べ物の中で、
常に、ベスト3内に輝いているのが、ラザニアだ。
そのラザニアを、イタリアに来て食べて帰らなかったら、
生涯悔やむに違いない。
スパゲッティを食い損なっても構わない。
ピザを食い損なってもいとわない。
しかし、ラザニアだけは、なんとか腹におさめねば!
志は強かった。
「レストランに無いかもしれないですネ」
通訳さんが仰る。
『ど・どうして?』
「ラザニアは、造るのがめんどうで、小麦粉を捏ねなきゃネ」
『?・・ふむ?』
「だから、家庭では造るのですが、レストランでは・・・」
『ないの?』
「では・・・探しましょ」
探した。
歩いて、レストランがある度、
「ラザニアありますか?」
『ないで~す』
信じられなかった。
ラザニアの本場、イタリアで、ラザニアがナイなんて!
「ラザニア食べたいんですが」
『ナイ』
「ラザニアないのかネ?」
『どうぞ』
ついに見つけた。
テーブルに案内された。
どきどきして、ワインを舐めながら待った。
しかして、目の前に、ラザニアが差し出された。
ん・・・?
それは・・・皿に載っていた。
私が知っている日本のラザニアは、
深めのラザニア皿でオーブンで焼かれ、
表面がチーズでコンガリ茶色に焦げている物体だ。
スプーンですくって食べたものだ。
ところが、こいつは、皿の上にムキ出しになっている。
なんか・・サザエが殻を捨てて、中身だけ出てきたみたい・・
言ってみれば、
カツ丼に憧れた外国人が日本に来て、
「カツ丼一丁!」
注文のあとに出てきた品が、
カツとご飯が別々に出てきた状況に似ているかもしれない。
そのカツだけを見て、ショックを受けているのが私なのだ。
うなだれながら、フォークでつついた。
つつきながら、ニタニタしていた。
こいつは殻を捨てても、やっぱ、ベスト3だゼ!