《ネットイン》
卓球の競技中、ボールがネットに触ったにもかかわらず、
相手側に落ちた場合、こう呼ぶ。
セーフである。
競技は続けられる。
ところが、我々素人は、そうは呼ばなかった。
《ネッチン》
その昔の日本人は、外来語を聞こえたままに呼んだ。
大人がそう呼ぶから、子供たちはマネした。
マネしながら、その呼び方が気に入っていた。
「今の、ネッチンじゃろぅ~」
『おう、ネッチンじゃ、ネッチンじゃ』
チンという響きがいたく気に入った。
気に入るあまり、
「ネッチンチンじゃぁ~」
わざと繰り返す子供まで現れた。
「ネッチンばぁっかで、卑怯じゃねえか」
意図的には、ネッチンはできないのだが、
子供的には、ズルい感じがするのである。
我々は、偶然ネッチンがおこるが、
オリンピックレベルになると、
ネットギリギリを常に狙っているので、ネッチン率が高い。
そのネッチンした玉まで、軽々と、
拾ってしまう凄まじい運動神経を持っている。
今回銅メダルを射止めた、水谷はじめ選手に至っては、
ネッチンどころか、
テーブルの角に当たった玉まで、ハネ返してしまう、
と云う驚くべきワザもみせてくれた。
角にこするように当たり、急降下する玉は、拾いようがない。
ない筈なのに、猫の如きの素早さで、ラケットを差し出した。
卓球では、角に当たって得点した場合。
相手に対して、手をあげて謝るのである。
「わざとじゃないけど、ごめんネ」
礼儀にしているのだ。
心の底では、
(ラッキー)と思っていても、
すまないという気持ちを表す。
武士道精神が、みえてほほえましい。
しかし、それも1ポイントは1ポイント。
ネッチンは、謝らない。
しろうとの我々レベルは特に謝らない。
謝るどころか、
「ラッッキィ~~~」
挑発すらする。
「わざとだけんネ」
もっと挑発する。
そのうち、喧嘩になって、ラケット投げ捨て、
お開きとなる。
卓球にネッチンがなくなったら・・・
たぶん、面白くない。
(あの柵を飛び越える時、足が引っかかって向こうに落ちたら、
ネッチンでセーフ)