「滝田くん、棚にあるレミーマルタン飲んでいいよ」
レミーマルタンと云えば、通称レミーと呼ばれ、
酒飲みの間では、よだれタラタラの洋酒である。
銀座あたりでボトルを入れようものなら、
目がとび出すと言われている。
氷の上に、トクントクンと滑らかに注ぎたくなる琥珀の宝物だ。
「あいよ」と喜び、ボトルを手に取った滝田くん。
ギコギコやっていたかと思いきや、突然、
ボキッ!
レミーの栓は、コルク式になっている。
無理やりコジたのだろう。
コルクが半分あたりで折れてしまった。
仕方なく、私がワインスクリューで取り出そうとしたところ、
ズボッ!
今度は、コルクがボトル内部に落っこちてしまった。
ふたりは、お互いをにらみ合った。
責任の所在はあいまい。
そのまま注ごうとすると、ラムネのように、
コルクが入り口に、栓となってフタをする。
ナカミがほんのちょびっとしか出てこない。
振れば振るほど出てこない。
で、どうする?
ビンの口に櫛を突っ込みながら、レミーを注ぐのである。
ジョボッジョボッ
なんともやるせない行為になった。
みみっちぃ人間になった。
せっかくの高級酒なのに、
安酒場で、食い終えた櫛の数をかぞえる飲み方になった。
あまりに残念なので、
ふたりでチャンチャンコを着て、
座卓に座り、背を丸めて呑むことにした。
ツマミとして出した柿の種を、あっという間に、
滝田くんがひとりで食べてしまい、口論になった。
責任のなすり合いになった。
レミーの呪いは恐ろしい。