万能ネギが、スーパーから消えた。
消えたというのは大袈裟だが、しばらく仕入れがない。
困る。
納豆はじめ、鍋など、様々な食事シーンに欠かせない。
「白ネギで代用すればいいじゃな~い」
そういうもんではない。
青ネギには、それなりの役目がある。
青ネギにしかできない使命がある。
特に、西日本で育った私には、切実な思いいれがある。
《ワケギ》
ネギではなく、ワケギ。
包丁で刻むと、独特の香りが台所いっぱいに拡がり、
タマネギのように、目が痛くなる。
たった1本のワケギで、納豆がまかなえる。
1本あれば、数人分の味噌汁を拵えられる。
言葉を変えれば、「クセの強い奴」。
奴と呼ばれることに、誇りを持っている奴。
さあ、万能ネギが消えてしばらく経った頃。
スーパーに、代用のネギが登場した。
少量だが、置いてあった。
勿論、購入した。
形状は、曲がっており、土を落としたばかりがみえみえ。
そう、昔ながらの、ワケギが売られているのだ。
どういうことなのか?
ここからは私の推測シーンです。
「亀さんヨ、あんたンとこの庭に植えチあるネギ売らんかい?」
『いやじゃ、ウチで喰う分じゃけぇ』
「今ヨ、ネギがのうてナ、高こう売れるで」
『売らん』
「世の中にネギがねぇんじゃ」
『・・・・・』
「みんな、困っちょるんじゃ」
『ウチのは辛ぇで』
「いいやん、辛ぇの」
『臭せぇで』
「いいやん、臭せぇの」
『曲がっちょるし、泥付きやで』
「ハハハ、ばあさんの腰と一緒やナ」
しかして、
曲がり、泥付き、辛味ありの青ネギ(ワケギ)が、
スーパーに卸されたのであった。(のかも)