ロープの話をしよう。
長いロープがここにある。
400mのロープだ。
このロープは、ドラムに巻かれている。
さて、このロープをドラムから、トランクに移すとしたら・・・
どうします?
コレは現実に起こった物理の問題です。
そして、この物理原理を失敗したのが、洞窟探検家の吉田氏だ。
普通こう考える。
「ロープなんて、ただ引きながら移せばいいんじゃない?」
そこで、冒頭の私の手書きの絵を見ていただこう。
ロールに巻いてあるロープをただただ、引っ張りながら、
素直にトランクの中に移していけば、
そのロープは、その後、引っ張りだせば、そのまま出てくる。
ところが・・・
ロールをバタンと倒した状態で引き出した場合・・
ロープは、一回につき一回ひねりながら出てくる。
つまり、
ロープはネジレている。
どういうことか?
1mにつき一回ネジレるとすると、400mは400回ネジレる。
洞窟探検家の吉田勝次氏は、このネジレたロープを持って、
パプアニューギニアに出かけたのであった。
彼がチャレンジしたのは、まさに400mの深さの縦穴だ。
降り始めて、100mあたりで、ネジレの回転が始まった。
クルクル・・・
「あれれ・・あらら・・」(吉田氏)
ロープの捻じれとは、長ければ長いほど力が加わる。
「おいおい、目が回るですよ」
降りていけば降りていくほど、グルグル回る。
「やばいゾぉ、気を失いかけてるぞぉ~」
400mの懸垂下降中に、急速回転が起きている。
単純計算で、1mにつき1回転。
つまり、400mで400回転。
恐るべき回転数だ。
「もう・・だめかもしれ・・・ん」
普通の空中なら、景色が見える。
ところが、ここは、暗い洞窟。
回転している景色が見えない。
さすがの吉田氏の意識が消えかける。
「ナイフでロープを切って落ちよう、どうせあと20mそこらだ」
20mを落下しても、死にやしないだろうと判断する。
それよりも、なによりも、
高速で回転しているまま、意識を失う死の方が恐ろしい。
「ええい、ままよ・・・」
結果を言おう。
吉田氏の運なのか、あがきなのか、
意識を失う直前に、
洞窟の底に身体がこすりつけられたのであった。
「なんで、ロープドラムを倒してから巻いたの?」
『間違いは分かっていたんだけど、とても急いでいたもんでネ』
「で現地で?」
『直すハズだったけど、急いでいたので、忘れて・・・』
探検家でも、間違いは起こるのでした・・・