活きているみずみずしいアンコウが手に入った。
これは捌くしかないでしょう。
アンコウと言えば、昔から《吊るし切り》が定番だ。
ブニュブニュしているので、マナ板の上では、さばきにくい。
外で吊るすのが一番だが、
本日は、台所での吊るし切りだ。
まず、大きな口に、S字カンを引っかける。
アンコウはしぶとい生命力を持っている。
ちょいとやそいとではくたばらない。
絶命したフリをして、突然ガブリとやられかねない。
軍手をしてもゴム手袋をしても、この鋭い歯の列を見たら、
尻込みしてしまう。
ペンチが必要となる。
吊るした。
口から水をガバガバ入れて、腹を膨らませる。
「もしもし・・」
一応、ご機嫌をうかがう。
お亡くなりになったようだ。
合掌をすませ、いざ、包丁を刺しいれる。
見た目はごつそうなのだが、包丁には弱い身体をしている。
サクサクと切り進める。
背骨の周りにしか身がついていない。
つまり、体格としては、
痩せている。
アンコウをして痩せているとの表現は、信じられないだろうが、
実際、タラやら、ブリだのに比べると、痩身である。
太って見えるのは、頭がデカいからだ。
腹の水を出すと、内臓的には、肝臓(アンキモ)だらけである。
脂はあまり感じない。
ほとんどがコラーゲンばかりの肉体だ。
内臓の一部を捨てる以外は、すべてが食べられる。
背骨は当分に切断し、あとで天ぷらにしてしまう。
もうひとつ食べられない部分は・・歯だ。
歯の周りの唇あたりは非常に美味しい部分なので、
歯でケガをしないように、調理ハサミで、
鋭い歯を全部切ってしまう。
さ、完成した。
ぶつ切りにしたアンコウは、10人前はあろう。
綺麗に洗い、鍋へと放り込まれる。
イバラキでは、ドブ汁と称して、味噌にアンキモを溶いて、
ドブドブの鍋にするのだが、
我が家の鍋は、薄味である。
コブで下味をとった汁に、薄口醤油だけで味付け。
あとは、アンコウの実力におんぶしてもらう。
適当に野菜を入れて、できあがり!
アンコウ鍋とは、コラーゲン鍋である。
残った翌朝、さかさまに鍋をひっくり返すと、
ドーム状のニコゴリの塊があらわれる。
よし、今度、アンコウの形をした容器に、入れて、
翌朝、ひっくり返してみよう。
アンコウのアンコウが観られるだろう。