《雷魚》 ライギョ
鯉がいるような池だの沼に、いる。
いると言うより、いた。
その昔・・・の話だ。
魚界では、どう猛なヤツである。
肉食だ
鯉のように、プカプカと口を開けてのんびりなどしていない。
ひっそりと、静かに水面下にいて、
餌が落ちたとたん、ヘビのような俊敏さをみせ、
バクリと食らいつく。
あっという間に、水の中に消えてゆく。
ゆえに、雷魚を写真に撮るのは難しい。
時速540キロのドクターイエローを撮った私でも、
雷魚の写真はない。
むりやり撮るなら、淡水水族館に行くしかない。
雷魚の模様は、マムシに似ている。
忌み嫌われる模様だ。
だからか・・雷魚を食べる習慣はない。
雷魚を食べた人は珍しい。
その珍しい人が私だ。
小学生のけんじろう君が、沼に釣り糸を垂れ、
雷魚を釣り上げてきた。
腰にぶら下げて帰ってきたのだが、雷魚の尻尾が、
土の道に擦れて、ほとんど無くなっていた覚えがある。
大きさを想像して頂けただろうか?
台所に、ドタンと転がした雷魚に、母親は顔をしかめた。
鯛でもウナギでも何でも捌いてしまう、母親であったが、
さすがに、雷魚には腕組みしてしまった。
「この魚・・・食えんの?」
この夜、我が家の食卓には、大量のフライが盛られた。
大皿に、いい香りのするフライがこんもりと盛られたのである。
「けんじろうが釣ってきた雷魚じゃ」
父親の合図で、皆の箸が舞い踊る。
パン粉でカラッと揚げられた雷魚の身は、
肉食魚の旨味に満ちていた。
「うまいうまい、けんじろ、また釣ってこい!」
父親は、日本酒のとっくりを傾けながら、ご満悦なのだが、
その後、雷魚は釣れなかった。
だって、あいつ、動物界で言えば、虎だもん。