点滴はむいていない。
検査入院などで、病院で点滴を受けることがある。
「ちょっとチクッとしますネ」
お決まりの文句から始まる点滴。
私にとってはここからが、問題となる。
様々な事柄において、ジッとしているのが不得意な私。
その最たるものが点滴と言っていい。
ピトン ピトン ピトン
大きなビニール袋から、ほんの僅かづづしか落ちてこない液体。
落ちてくる様子を見まいと努力する。
忘れようとする。
目をつむる。
しかし、何となくあけると、
そこに点滴の滴り落ち管が見えてしまう。
右手に繋がれた場合は左に寝返りがうちにくい。
やや右側に向いて寝ている。
すると、目をあけると、そこに管が見える。
ピトン・・をイヤでも見せ付けてくる。
「設定が遅いんじゃないのかな~?」
素直な感想が浮かぶ。
繋がれたその管は、明らかに
私を拘束している。
逃げるという選択肢を除外している。
スパイ映画などで、点滴などが繋がれた管を、
引きちぎって病院から脱出するシーンがある。
あんなことが出来るのは、やはりよっぽどの事があるのだ。
今、チラッと右腕に刺された針を見てみたが、
コイツを自分で引き抜くのは勇気がいる。
「自分で抜いたんですか!」
看護師さんの吊りあがった眉が目に浮かぶ。
「血だらけじゃないですか!」
追いうちが恐い。
チラッ、目をあける・・管を見る。
「え~まだ全然落ちてないじゃ~ん」
眠ろうとするのだが、病院は何かとざわついている。
廊下を小走しるスリッパの音。
お掃除の音。
配膳車の音。
やさしい看護師さんの声『いかがですかぁ~』。
完全な静けさより楽しいのだが、眠るのには向いてない。
仕方ない、本を読もう。
文庫本を取り出し、集中する。
チラッと管を見る。
アレェェェ~
全然減ってないじゃ~ん。
ピトンピトンがないぞ?
右腕を見てみる。
本を持つ為にヒジを折り曲げていたセイで、
管が折れ曲がってしまい、止まっているじゃないか!
10ページは読んだゾ。
何のための読書時間だったんだ。
ショックのあまり、バタンと倒れたいところだが、
すでにベッドに倒れてねている。
これ以上の感情表現ができない。
残念感を、
ヒジ伸ばしという滅多にみない表現で終えた。
よし、いっそ、ピトン ピトンを見続けてやろう!
何十回いや何百回おちるのか見てやろうじゃないか!
・・・・・・・・・見ていた
う~む、つらい・・
根性論では成り立たない。
観察日記としても面白くない。
時間が経つのが、もの凄く遅くなる事実だけが伝わった。
点滴好きな人がいる。
昼休みに嬉々として病院に向かう人がいる。
堂々と昼寝できる楽しみに浸っている。
『ちょっとチクッ・・』
言葉が終わらない頃には、もう気を失っているという。
よほど疲れているのか、条件反射になっているのか、
羨ましい限りだ。
そういえば、
初めて点滴をしたのはいつだろう?
アレは確かぁ・・・
「はあい、終わりましたよぉ~」
いつのまにか眠っていたようで、無事おわりましたとサ。