交響曲の話をしよう。
ホルストの組曲に、《惑星》がある。
水金火木土天海の、
それぞれの惑星をイメージした曲が奏でられている。
有名なのは、《ジュピター(木星)》だ。
よく耳にする。
さあ、30年前に遡ろう。
カーステレオに、
この惑星シリーズが、カセットで放り込まれている。
夜明け前、ドラマロケに向かう私は、首都高速に入るや、
カセットのスイッチを押す。
オープニングは、<火星>から始まる。
ホルストの説明には、こう書かれてある。
《火星=戦いをもたらすモノ》
フルオーケストラが、いきなり恐ろしい音色を奏でだす。
SF宇宙映画のこわ~いシーンに流れる曲だ。
なんたって、
戦いをもたらすのだからして、
これでもか、これでもかとエキセントリックなメロディが、
ハンドルを握る私に襲い掛かる。
その気はないのに、スピードが上がる。
制限速度を超えそうになっている。
落ち着かなくてはいけない。
そんな時、惑星の楽章は、クライマックスを迎える。
おりしも車は、首都高速の、
レインボーブリッジにさしかかった。
夜明けだというのに、私は興奮している。
「戦いをもたらすモノ」
私の中では、
どんどん行け!
ガンガン!
ぶっ壊せ!
エキセントリックにアクセルを踏みたくなる。
やばい、コレいけない。
冷静になろう・・・
っとその時、曲が一気に変わる。
《金星=平和をもたらすもの》
この頃、お日様が地平線に現れ、
美しい朝焼けが目の前に広がる。
次々に曲が繋がる。
《水星、翼のある使者》
《木星、快楽をもたらす者》
《土星、老いをもたらす者》
《天王星、魔術師》
《海王星、神秘主義者》
すべてを聞き終った頃、ロケ現場の近くに辿り着く。
どの星の曲で現場に着くのかが楽しみになる。
望むらくは、
《天王星の魔術師》で滑り込むのが、
役者としては望ましい。
しかし・・・
カセットは一周グルリと回り、ふたたび・・
《火星》の大音響で、現場に辿り着くのである。
ガンガン!ぶっ壊せ!
で・・
今日の役は殺人犯人であった。