芝居の旅で地方に行く。
劇場では、年のころ80を超えた
おじいちゃんたちが見てるんですなあ。
ときおり、ガホガホといって、笑っているんですなあ。
腹筋が弱っているので、思いっきり笑えないんですなあ。
おまけに、肺活量も減っているので、
笑い
続けることが出来ないんですなあ.
それでも、あまりにもおかしいところは
ガマンできないらしく、ヒィー・・ヒィー・・
「笑う」 という行為はとんでもない体力を使らしい。
さあさあ、そこでだ!
あのおじいちゃんが、あのまま、
ポックリ逝ったとしたら・・
それはそれでいいんじゃないだろうか?
人生の最後に大笑いをしてジャンジャン。
いいじゃん・・最高ジャン・
さあ、そうなると、大変でッセ。
マスコミがほうっておく筈ありまへんなあ。
「石丸一座、公演中に観客
笑い死に!」
大変大変!
マスコミが取材にきて、
どういう状況で、笑い死にしたのか、
特集をくんでTV,ラジオ、新聞、週刊誌で、
大騒ぎ!
それを見た、同年齢のおじいちゃん、おばあちゃん達が、
私も私もと、さっとうする。
「わたしも、笑い殺して~」
「あだしも、死んでみたいわ~」
「ころじでくで~」
「お布施は、なんぼでっしゃろか?」
「わたしら、くすぐっても、もう笑えまへんのや」
こうなったら、話題が話題を呼び、もうパニックですわ。
石丸一座の芝居が次にどこでやるのかの問い合わせが殺到し、
チケットは売りきれ!
立ち見まで出るしまつ。
高齢者は立ち見が出来ないので、
原点に戻って、
座布団席をもうける始末。
すわっ!「座布団だ~」
ってなことで、安心した高齢者のお歴々が、
お茶菓子を持ち込み、さらには、ヨメサンが用意してくれた、
魔法瓶のお茶を
本番中にコポコポとそそぐのでんなあ。
そうなると・・モウ大変・・
お芝居にはおじいちゃんおばあちゃんの
空咳がつきもの。
コポコポ・・
ガホガホ・・
チッチッチッ・・(お茶菓子の残りカスをほじる爪楊枝の音)
本来はオケピットがあるあたりに
座布団の円陣が出来あがり、
「とめさんとそうじろうさんが怪しい・・」
ほんでもって、当然自慢話とあいなるんですわなあ。
「あたしの死に方は誰にも負けまへんでー」
「わしが、戦時中に笑い死にかけたのは、満州じゃった」
「ボクの特技はへそで茶を沸かすことなんでひよ。」
「一生に一度でいいから、入れ歯を飛ばしてみたい」
「あたしの彼氏は、笑い顔がきれいじゃったのよー」
さあさあさあた~いへん!
裏のスタッフも製作もてんてこまい!
それでも舞台上の役者は、
真面目に芝居を続けるしかおまへんのですがなあ。
おまへんのですが、
これが
集団の心理的効果ってぇ奴ですかい?
本当に
ポックリ逝くお方が出てしまうんですなあ。
ピーポーピーポー
「ほらみろ、やっぱり!」
マスコミは騒ぐし、のりにのった役者連中が、
又、あおるもんだから、
ほらまた、ポックリ
そこでもポックリ
そうなると、連鎖反応で、
まだまだ、おい先長いと思っていた、梅さんまでポックリ、
亀二郎さんまでポックリ
ポックリ・ポックリ・・・
「石丸一座ポックリ公演」
ついに八戸に来たる!
なんて見出しが地方版の新聞に載ったりして、
ポックリ教の教祖石丸様を一度拝顔しとかなきゃ
という地元のしわしわ連中と、つえつえ連中が
ドット!押しかけてきたりしまんねんがな。
・・・きません