バタヤンにも哀しみがある。
これまで、数々のデザイナー賞を頂いてきたバタヤンである。
イタリアでは、世界的なデザイン賞をいただいた。
それも2度も、黄金色に輝いた。
映画で云えば、アカデミー賞のグランプリを、
二度も頂いたに等しい栄誉だ。
レッドカーペットを歩いた。
ドラムロールで名前を紹介された。
つまり、デザイナー界の頂点を極めた人間が、
ある日のこと・・・リゾートのコテージの台所にいた。
「魚の名前を書いて、皿に並べておいて」
イシマルに命令されたのである。
その日、イシマルが大漁に釣ってきた数々の魚を、
イシマルが刺身にし、イシマルが皿に盛り付ける。
そこに名前を書いた紙をレイアウトしてくれ、と命令されたのだ。
バタヤンのデザイナー心が刺激され、
黙々とはげんだ。
シビ(キハダマグロの幼魚)
カンパチ
シイラ
ツムブリ
カワハギ
グルクン
刺し身の隙間に、紙が差し込まれ、盛り付けを華やかにした。
出来上がったその時だ・・・
「ダメっ、やり直し!」
予期せぬ声がとぶ。
声の主は、イシマル。
理由は、「どの魚が、どの名前かわからないから」。
一閃とは、このことで、スパッと切られた。
世界的には、認められたのに、こんな人に裁かれた。
魚を釣って、さばいたというだけで威張っている人に、
無碍なる却下の言葉を吐かれたのである。
「ダメッ」
アカデミー賞とは全く無縁の某俳優に、
デザインなんかほとんど理解できない役者のはしくれに、
デザインを落第させられたのである。
ああ~バタヤンは哀しい・・