《神武以来の天才》
将棋界で、昔から使われてきた言葉である。
ひふみんこと、加藤一二三(かとうひふみ)元名人を、
表わす時にのみ使う。
「じんむいらい」と読むのは間違い。
正解は、
「じんむこのかた」と読む。
神武天皇このかた、つまり、大昔から現在に至るまでの間、
唯一傑出した天才という意味で、
他には、天才はいないともとれる。
将棋好きの人には、加藤一二三さんのユニークな物言いと、
変わった動きは有名だった。
ひふみんなどと呼ぶのが失礼なほど、将棋は強いのだが、
なんせ、観ていて面白い人である。
最終局面で、自分の勝ちがほぼ決まった時には、
少し腰を浮かしながら、空咳をするようになる。
「勝った!」と宣言している。
された相手はたまったもんではない。
まだ逆転があるかもしれない時に、
カホッ(勝った!)、ゴホッ(勝利だ!)。
駒を将棋盤に打つ音が凄まじい。
パシッ!
なんて、柔な音でない。
バアァシィ~~ン!!!
駒が割れるのではないか?
心配してしまうほどの迫力で打ち付ける。
実際、
香車を割った事もある。
香車と云う駒は、漢字を見てもわかるように、
真ん中にタテに線が入っている。
ゆえに、割れやすい。
あまりの勢いで打ち付けるものだから、
置き場所が微妙にズレてしまった時など、
近所にある駒をふっとばした事もある。
テレビ対局で、実際見た。
対局者は、加藤ひふみさんの事だから、
「ま、あるはナ」
程度しか反応しない。
慌てて拾い集める姿が、巨体を動かしており、面白い。
何より加藤ひふみさんは、早口である。
頭の回転が非常に速いので、それに付いていこうと、
本人自身が、
急いで喋っているとしか思えない。
頭の回転に、口の回転が間に合わない。
よって、まだまだ言い足りないらしく、
いつも、もどかしそうに喋っている。
加藤ひふみさんの得意戦法は、
《棒銀(ぼうぎん)》である。
棒銀とは、飛車の前に銀が進む戦法で、
長いクレーンの先に歯がついたショベルカーを、
想像すると分かりやすい。
グワ~~ン!
飛車が銀をふりまわす!
迫力満点の戦い方、これ一本で、
天才集団の中、長い間戦ってきた。
神武以来・・この先、
《かとうひふみこのかた》となるのだろうか?
冒頭の写真は、駒柱が立った瞬間
で、あとの写真は、それからしばらく対局が進み、
再び駒柱が立つという珍しい局面