シマアジ刺し身
シャッシャッシャッ
包丁を砥いでいる。
文化包丁をはじめ、我が家にある数本の包丁を砥いでいる。
ある程度、砥いだところで、
次に、刺し身包丁の砥ぎに入る。
文化包丁や西洋の包丁は、砥石で砥がなくとも、
ちまたに売っている、包丁を前後に動かすだけの砥ぎ機で、
砥いでも、なに不自由なく使える。
しかし、刺し身包丁だけは、砥石(といし)の出番となる。
まず、砥ぐ前に、ふぅぅっと深呼吸する。
ココから先は、感覚の世界となる。
砥石の上を滑らす包丁の傾きと押し方が、
とても微妙な感覚を必要とする。
刺し身包丁の刃先は、非常に鋭利である。
日本刀には及ばないものの、様々な刃物の中でも、
切れ味では、他をぬきんでている。
そうでなければ、魚をアレほど見事なまでに薄くひけない。
「刺し身の旨味は、包丁の切れ味で決まる」
豪語した板長さんがいたほどだ。
シュッシュッシュッ
右手で包丁の柄を握り、
左手の人差し指と中指と薬指の3本を鉄の部分にあてる。
視線は、滑ってゆく砥石と包丁の境目だ。
どちらかと云うと、グッと睨むというより、
薄く半眼にし、そっと見る。
水は、あまりかけない。
鉄が溶け出し、黒くなり、粘り気がでた時点で、
水道から、チョロチョロと流しかける。
その為に、最初から蛇口をゆるめ、
右側の離した場所に、チビチビと水を落としておく。
その水に、砥いでいる最中の包丁を傾け、
包丁を介して、水が砥石にかかるようにする。
シュッシュッシュッ
和包丁は、片面が刀のような形状になっている。
反対面は、平ら。
平ら側は、押すのではなく、引くだけ。
バリをとる要領で手前に引いてくる。
よし、砥げたかな?
砥げたかどうかは、
刃先に、先ほどの3本の指の腹を当てる。
そっとあてる。
恐いが、しかたない。
トントンという感じで触り、刃先の鋭さを確かめる。
間違っても、引いてはいけない。
砥ぎを覚えたての頃、なぜか引いたことがあった。
うぅ
その話は、今したくない。
語っているだけで、背中がゾクゾクしてきた。
うぅぅ
なぜ引いたかというと・・
うぅぅぅぅ
やめようぅぅ