これからハヤルもの
<
カーリングバー>
バーの長いカウンターが大部分、氷のテーブルに
なっているのだ。
その氷の上をグラスが
滑ってくるのだ。
ん~・・・やってみよう。
『スコッチ、ロックでくれる』
「かしこまりました」
やがて、長いカウンターの端から、スコッチグラスが
スーと押される。押しているのは、
「かしこまりました」と応えた、女性のバーテンだ。
実は、このバーテン・・
カーリングの選手なのだが、
遠征費を稼ぐため、この店で、働いているのだ。
スー・・・
グラスは、音もなく、客の前にやってくる。
客の前の氷には、例の
◎の的が描かれてある。
あっ、ちょっと短いか?
そう思った客は、あらかじめ渡されてある、小さな
デッキブラシ(鉛筆くらい)を掴み、
ゴシゴシやるのだ。
バーテンも、「
イエース・・」など、
指示を出してくれる。
的の真ん中に、
ピタリと止まると、
嬉しいのだ。
チラ とバーテンと目を合わせ、喜びを共感するのだ。
ただし、喜び過ぎて、いつまでも、グラスを置いておくのは
いけない。
その氷の通路は、みんなの
共有通路なのだから。
やがて、隣の客が、おかわりをすると、私の
目の前を通過していくことになる。
その時、ブラシを使ってはいけない。
他人の石を(じゃなかった)グラスを
邪魔してはいけない。
それと、注意をひとつ。
バーテンの彼女を「オネエチャン」と呼ばない事。
この店では、
スキッパーと呼ばれている。