肩に扇風機をかついで、街なかを歩いている人を
見た事がありますか?
30年以上前の、夏の事だ。
当時、
冷房というものが、世の中に普及していなかった。
東京の電車でも、一列車に一両くらいしか
冷房車が無かった。
よもや、安アパートにあるはずもなく、
古道具屋で買った
扇風機が活躍していた。
しかし、問題は、食事時だ。
食堂も、御託に漏れず、冷房など無かった。
ましてや、行きつけの中華屋にいたっては、蒸し風呂よりひどい。
ラーメンなんて食べようもんなら、パンツまで
汗びしょになる。
そこで、考えたのが、空調持ちこみ。
<
扇風機持参>
『電気借りまあ~す』(返さないくせに)
中華のおばちゃんはいつも心良かった。
スイッチを{強}にして、身体の正面からぶっかける。
ああ気持ちいい。
ラーメンがくる。
なんとかしのげそうだ。ズルズル~
・・ん?あれ?風が来ない。
扇風機が
首を振っている。
あとから入って来た客が、
首振りボッチを押したようだ。
(ごめんね、これは、ボクのなの)
ボチッ
《ざけんな》
ボチッ
(あとで、風あげるから、今はラーメンが)
ボチっ
《しばいたろか》
ボチッ
え~、暑いならあんたらも、扇風機持ってきなよぉ。
まあ、電気借りてる手前大きく主張も出来ず。
風のサービス係になってしまった。
そんなこんなで、ひと夏、扇風機をかついでいると、
ああ、
アノ青年の風なんだと、理解してもらえる様になった。
客人も、この、
青年の風に、
やっと、感謝してくれるようになった。
『
いい風ありがとう』
「
いえ、お粗末な風で」