<信号を
フライング> する人がいる。
横断歩道で、信号が
まだ赤のうちに、歩き出す人がいる。
2・3秒なら良くあることだが、
時折、極端に早く歩き出す人がいる。
本人も、
ちょっとだけ早かったかなと、思っている。
しかし、実は、その信号は変則的で、
まだ、当分、青にはならないのだ。
歩き出した彼以外の人は知っているので、
じっと待っているのだ。
さあ、問題の彼・・4・5歩目になった時、
(これは変だな)
と思い出した。
思ったものの、
歩みを止めるわけにもいかない。
恐らく、あと1・2歩で青に変わるだろう。
(ん?まだ変わらないぞ。ひょっとして、完全な赤の横断歩道を渡っているのか?)
と思ったものの、
今更どうしようもない。
引き返すのも、おっくうだし、
なにより、周りの目がある。
『アイツ、間違えたな』
と思われたくない。
歩き続けるしかない。
と、その時、彼の様子が変わった。
突然、
アウトローになった。
(間違えたんじゃないんだ。
わざと赤で渡っているんだゼ)
そう、目つきが主張している。
これまで、
まっとうに生きてきた筈なのに、
いきなり、
不良になっている。
ありもしない、過去の悪行の数々を背中ににじませたりしている。
裏社会の文字がちらついたりしている。
あら、いつのまにか、横断歩道の半分に達したぞ。
反対側で待っている人達が、彼を見ている。
(ふん、下々のザコどもめが)
この極端な短期間で、彼は、
見事なアウトローに
変身したようだ。
(言っとくが、この信号だけじゃないんだゼ。信号なんて、野生のオレには、そもそも存在してネエんだ。普段は、踏み切りだって関係ネエぜ)
キーーー!
一台の車が急ブレーキを踏んだ。
彼の手前で、クラクションを鳴らしている。
(おっと、お嬢さん、おいらにそんな事していいのかい?もう一回鳴らしたら怪我するゼ)
あらあら、あと4・5歩で渡りきる。
その瞬間、信号が青に変わった。
皆がどっと歩き出す。
今の今まで、注目の的だった彼の事など、
シラっと
無視だ。
と、アウトローの彼・・
最後の4・5歩を歩くうちに、以前の
<
まっとう>な人に戻っていくのであった。