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さくらんぼ狩り>
あのさくらんぼが、食べ放題! 持ち帰らなければ、
いくら食ってもかまわない。
そ~んなカンバンを見つけたら、人間として、
訪ねてみるのが、使命というものだ。
おお~!広大な敷地にさくらんぼ園が続いている。
すべてを、(鳥よけ?)の
網で覆ってあるので、中は、よく見えない。
しかし、よくよく見ると、あの
可愛い真っ赤な真珠が、
たわわにぶら下がっているではないか。
その数、何百、何千、いや、何万であろう。
期待が興奮を呼び、ほっぺたが、リンゴ・・じゃなかった、
さくらんぼのように真っ赤に紅潮してくる。
『お願いしま~す・・』
まずは、
しきたりが分からないので、レクチャーを受けよう。
おばちゃんが出てきて、名前を訊く。
30分、1500円だという。(短い時間だなあ)
さあ、案内を・・という時になって、バルンバルン!
観光バスが到着した。
何台も到着した。
ドアが開くなり、目を血走らせたオバちゃんオジちゃんが
どばっと、吐き出された。
もうすでに、全員の目が、真ん丸く、さくらんぼの形になっている。
『こちらの中へどうぞ。好きなだけ食べてええヨお~』
案内された網の中には、さくらんぼの木が50本ほどある。
1本につき何百個のさくらんぼが付いている。
そして、そこには、イシマルの他に、飢えた、バスの
オバオジが
野生の王国の
イナゴの大群のように、放たれたのである。
『
ワ~~~~~~~~ン』
オバオジイナゴは、凄まじかった。
手の届く、範囲の赤い実を、ちぎっては、口にほおり込む。
『
ブッ ブッ ブッ』
機関銃のように、種を吐き出す。
右手左手、交互に、ちぎる、ちぎる。
手が2本しかない事を呪っているオバオジがいる。
ひとしきり、網の中を徘徊すると、目標を
上方に変える。
用意されてある
脚立に登りだす。
『
ワ~~~~~ン』
イナゴの群れは、衰えを知らない。
「こんなもんかな」
誰かの声を境に、突然、イナゴの大群はサアーと立ち去るのであった。
その間、
15分!
あれほど食べたかったさくらんぼ食べ放題が、たったの15分!
ただし、15分間食べ続ける<
暴食>である。
恐らく、ひとり100個以上は腹に収めた筈だ。
そして、理解した。
あの網は、
鳥よけではないのだ。
世間様にあのイナゴの、
いじましい姿をお見せしない為なのだ。