『
オムレツか、
スクランブルエッグか、
目玉焼きの中から選んで頂きます。』
ホテルの朝食で、ウエイターがナプキン片手に
のたまう
定例語である。
この言葉を聞くたびに、
(全部いっぺんに食わせろよお) と思う。
ふむふむ、そうなのだ・・夢はかなうのだ。
最近のホテルは、
バイキング朝食が主流になっている。
朝、バイキング会場に行くと、ドバーと料理が並んでいる。
トレイを持ったイシマル。
まず、卵料理に目をやる。
スクランブルエッグをガバっと掬い取る。
その先の、
オムレツをピンチで摘みあげる。
返すピンチで、和風
卵焼きを一切れ、取り込む。
ん?コックが何やらイベントをやっている。
ほう・・
目玉焼きを目の前で作っている。
『半熟でおねがい』
「かしこまりました」
出来るまでの間に、横にある、ボイルドエッグ(
ゆで卵)をかっぱらう。
卵は貴重品だ。 (った記憶が染み付いている)
だから、卵を見ると、異常なまでの飢餓状態になる。
~~~ ~~~
1964年、10月10日、東京オリンピックの開幕の日、
イシマルは市民体育祭の陸上選手に選ばれた。
選ばれた選手が、小学校の校庭に呼ばれた。
『ガンバレ!』の激励と共に、御褒美を渡された。
ビニール袋に入った、
<
2個の卵>
最高の御褒美だった。ご馳走だった。
嬉しかった。
持って帰ったら、母親が、目玉焼きを作ってくれた。
その時、初めて、目玉焼きの
名前の由来を知った。
<目玉が、二つある>
つまり、それ以前の目玉焼きは、
片目玉焼きだったのだ。
ウインク焼きだったのだ。ウインク焼きを3人兄弟が競っていたのだ。
5人家族が奪い合っていたのだ。
~~~ ~~~
『半熟で、
目玉で焼いてね。わかります?』
上目使いで、こちらを見上げた年配のコック・・
笑顔で、コックリとうなずき、
真っ白な卵を
ふたつ、両手で、そっと差し出し、
『
こちらで、よろしいでしょうか?』