「種子島行きの便は、ただいま搭乗をお待ち頂いております」
鹿児島空港で、搭乗待ちをしていた折の、
女性アナウンスだ。
よくあるアナウンスで、まあ、気にも留めないたぐいだ。
ところが、その種子島便が、次第に怪しい雰囲気になってきた。
「種子島行き、もうしばらくお待ちください」
「アナウンスにご注意お願いします」
「どうぞ、ゲートでお待ち下さい」
どうも、<欠航止む得なし>の雰囲気が漂う。
その雰囲気を突き破るかの様に、
かつて聞いた事のない
エネルギッシュな女性アナウンスが響いた。
「種子島便ご搭乗の皆様、
ご迷惑をお掛け致します事を
覚悟で申し上げます。欠航致します。
つきまして、払い戻しを致します。○○窓口~」
ほお!
今迄空港でいろんなアナウンスを聞いてきたが
<
覚悟で>
申し上げた 人は初めてだ。
肝が据わっている。
余りにも客を待たせ過ぎたので、
『ふざけんな!』という客が、
払い戻しカウンターに殺到する事が目に見えている。
その怒り狂った客を、
覚悟の上で引き受けようと云うのだ。
どうも、これまで空港でも駅でも、覚悟なしの
曖昧な表現での<遅延アナウンス>を聞き慣れてきた。
しかし、この<
覚悟アナウンス>で目が覚めた。
ポンと膝を打った。
パシっと額を叩いた。
人は、やはり、正直さが大切なんだ。
正直な気持ちは、相手に伝わるんだ。
このアナウンスの女性の声が、
やや震えていたのを、私は聞き逃さなかった。
お名前も知らない方だが、
<
あなたの空港> を私は信用したい。