役者 相島一之 (あいじま かずゆき)
頭のてっぺんから、かん高い声が噴出す、
希少な役者である。
京都で撮影をしていた折、
たまたま、彼が、同じく京都にいる事がわかった。
携帯に連絡を入れる。
「って事で、夕方6時に、高瀬川の木屋町上がったあたりで」
飲みに行くとなると、話が早い。
気も早い。
待ち合わせの15分ほど前に、現地に着いてしまった。
高瀬川と云って、巾4メートル程の川に、
小さな橋が架かっている。
放置自転車も多く。
待ち合わせるには、色気のない場所だ。
ベンチが二つあり、片方のベンチには、
ややレゲエ系の
やばそうなアンちゃんが座って
携帯をいじくっている。
拘わりにならない方がいい。
隣の、もうひとつのベンチに腰掛けた。
人通りは多いのだが、いっかな相島の姿は見えぬ。
やがて、6時になった。
おかしい?
相島は時間に遅刻してくるような男ではない。
何か、良からぬ事態でも起こったのではなかろうか?
6時5分まで待った。
胸に不安を覚えながら、発信履歴を押す。
プルルル~
「はい、アイジマです」
甲高い声が返ってくる。
『え~と、どおした?』
「えっ?ずっと待ってますけど」
『どこで?』
「ここで」
携帯を左耳にあてたまま、ゆっくり右に首を廻す。
同じく、首を左に廻してきたレゲエ野郎。
『あいじま!』「イシマルさん!」
同時に叫ぶ。
相手を指差しながら・・
・・・・・・
「ええ、僕もね、イシマルさんが遅刻してくるなんておかしいなと
思ったんですよ。でもね、でもね、最初に僕が座ってた時、
なあ~んか
イヤ~な感じの人が近づいてくるなあと
思ったんですよ。」
『ふ~ん』
「そしたらね、ベンチ座りそうになるでしょ。ハンカチで、
ベンチゴシゴシ拭きながら・・ヤッバイなあ~てね」
『ねえ、俺たち、もう何年知り合いなワケ?
なのにそんなに、お互い分かんないのかなあ?』
その夜の結論;
こんだけ知り合いなのに、識別が出来ない役者も珍しい。
つまり、
誰にもみつからない。
ならば、俺たちは
興信所の調査員に
職業換えをした方がいいのではないか。
「まっまっ、グビッといきましょう~」
京都の夜更けに相島のカン高い声が響く・・