20代の頃だった。
私が出演している芝居のパンフレットに、こんな欄があった。
【今、欲しいもの】
ふむ、迷わず書いた。
〈
テレビ〉
住んでいるアパートに、テレビが無かったのだ。
テレビどころか、ほとんど何も無かった。
勿論冷房はない。
かろうじて、電話線は繋いだ。
早速、反応があった。
テレビをくれるという。
キトクな方だ。
ただし、取りに来てくれという。
OK!
すぐ、東京都内在住の、キトクなお宅に向かった。
ピンポ~ン
お宅から、キトクな女性の方が現れた。
現れ、玄関に置いてあるテレビを指差し、
「あら?お車は?」
どうやって持って帰るのかと、尋ねているのだ。
(あ~たねえ、車があるんだったら、
テレビくらい持ってるんじゃないのぉ?)
との言葉をぐっと呑みこみ、
指で道路脇に停めてある、ソイツを指差す。
<50CCのオートバイ>
キトクさん、その後のイシマルの行動に目をまん丸にしていた。
50CCには荷台がない。
従って、バイクに括り付けるワケにはいかない。
そこで、かねてより用意してあった、<縄>を取り出した。
ロープではなく、縄である。
建築現場で拾い求めてきたものだ。
決して、クスネテきたものではない。
その縄で、押し頂いたテレビを、
我が背中に
グルグル巻きにしたのだ。
どうか、落ちないようにと、何重にも巻きつけた。
藁納豆に、テレビとイシマルが入っている絵図だ。
『ありがとうございました!』
蓑虫状の藁納豆が
正しいお礼をして、バタバタプスンプスン
原付バイクは去っていく。
嬉々として、アパートに戻った私。
早速、電源を入れる。
映像が出る。
・・・何かがおかしい。
音は聞こえる、でも何か、非常に違和感がある。
しばらく眺めていてやっと、気付いた。
(コレ、白黒テレビじゃん)