座椅子が好きだ。
食卓は床に座って食べる。
その方が、天井が高くなる。
となれば、座椅子が必要になる。
座椅子に、リビングの命を掛けていると言ったら大袈裟だろうか。
その座椅子に腰掛けている時、
何かの折に、後ろ向けに
ひっくり返る事がある。
恐らく、体重を後ろに不自然に掛けたのだろう。
ドタン!
天井を見ている。
両足が、天井を向いて、突っ立っている。
え~と、どうしよう?
横に倒れてから、起き上がろうか?
いや、横は、モノが置いてあって無理だな。
いやいや、倒れたのだから、元に復元出来ない筈はあるまい。
足の方向に、加重してみる。
少しだけ動く。
よし、
反動をつけよう。
足を前方へ放ると同時に、両手を頭の上から足の方へ投げる。
ソレっ!
おお~起き上がってきたぁ~
バタン!
はい、起き上がりましたぁ~パチパチ
年に何回か繰り返している行動である。
それが、昨日は違った。
いつものように座椅子に座ろうとした。
どっこいしょぉ~と座る私の右手には、
なみなみと注がれた
お茶の湯呑み。
左手には、汁気たっぷりのグレープフルーツの
むき実が
大量に皿に乗っている。
どっこいしょぉ~の勢いが強すぎた。
ゴタブンに漏れず、後ろにひっくり返った。
ひっくり返りながら、両手は、実に器用な動きをしていた。
二つの水分たっぷりの物体の
水平を保ったのである。
さあ、想像して欲しい。
私は、先ほど述べた
両足天井向けの姿勢になった。
ただし、両手を捻じ曲げ、危ない物体をささげている。
しばし、脳みその回転が止まった。
(どうする?)
いつもの、反動方式は通用しない。
そんな事しようもんなら、どうなるか・・想像すらしたくない。
(で、どうする?)
まず、手をフリーにしなきゃいけない。
だが、左右に水平な場所は無かったな。
本だの、いろんなモノが、林立しているな。
お茶と皿を降ろせないよな。
唯一平らな場所は、
頭の上だ。
あそこに、お茶と皿を無事着地させるしか手はない。
さあ、皆さんやってみましょう。
空の湯呑みと皿を持って、仰向けになり、
頭の上の場所に水平を保ったまま、置けるかどうか!
左の皿を傾けると、グレープフルーツの蜜が垂れてくるぞ。
特に、右手のお茶は、
入れたての熱々だぞ。
じわりじわりと、指先が回転し、
顔の上方を、恐ろしい液体が通過している。
その時、本気で思ったのだ。
(座椅子の生活は・・もうやめよう)