テレビで将棋対局を観ている。
もう大詰めになり、終わりが近い。
私は、ちょっとヨソミをしていた。
やには、
「マイリマシタ」の声がした。
どちらかが、<負けた>と宣言したのだ。
将棋というのは、どちらかが、
<負けた>事を宣言する事で、勝負が決する。
え~と、ヨソミをしていた私は、
どちらが、負けの宣言をしたのか見ていなかった。
「どちらだろう?」
テレビに、二人の対局者の姿が映っている。
二人とも、お茶を飲んだり、頭を掻いたり、テレ笑いをしたり、・・
「え~?どっちが勝ったの?」
例えば、ボクシングの試合で、
試合終了時に勝ち負けが解らないなんて事はありえない。
大概、手を突き上げている方が勝者だ。
礼に始まり、礼に終わる柔道でも、勝者は一目瞭然だ。
勝った方は、歯をむき出している。声を発している。
テレビ東京のテレビチャンピオンでも、勝った方は見分けがつく。
笑顔の桁が違う。
そこで、将棋だ。
終わった直後に、ブツブツつぶやき、腕組みをし、首をかしげ、
苦みばしっている方の人間が、
勝った方だったりする。
えへらえへらと嬉しそうに、話している方が、
なんと、
敗者だったりする。
将棋を知らない人に、あの映像を見せて、○×を付けさせても、
まず、当たるまい。
なぜ、そう云う現象が起こるのかというと、
将棋は、勝った方が、
負けた側の心情を思いやる競技であるからだ。
(私が勝ったが、あんたも中々やったよ。強い!)
と持ち上げてやるのである。
「タダでさえ、負けて悔しいところに、
ヒドイ仕打ちをしてはいけないよ・・」
との不文律が、長い歴史の中で出来上がったのだ。
とはいえ、それは将棋の高段者の話だ。
我々、縁台将棋のヘボは、勝てば、やったやったと
大騒ぎする。
負けた相手を指差し、へたくそ呼ばわりする。
負けた側も、勝つまで、もいっちょやろ、もいっちょやろと、
キリが無い。
断崖の上の細い石橋