<酢豚> すぶた
酢豚に、一言云いたかった。
酢豚は、20代の頃の憧れだった。
中華屋に入ると、壁のメニューに目をやる。
その一番端っこに、
燦然と輝いているのが
<酢豚>だ。
値段が一番高かった。
餃子や、チャーハンをあざ笑うかの如く、
極端な値段が
貼り付けられていた。
ラーメンライスをすすりながら、
生涯、酢豚を注文するなんて事はないであろう、とさえ思った。
すなわち、街の中華屋に、
酢豚以上の豪華料理は、無かったのである。
ニラレバ炒め、八宝菜でお茶を濁していたのである。
その酢豚が・・・
憧れの酢豚が・・・
スブタが・・・
今日、街のスーパーに行く。
惣菜コーナーにおもむく。
が~~~ん!
酢豚だらけだ・・
酢豚のパッケージがゴロゴロしている。
そこらじゅう、酢豚だらけだ。
惣菜コーナーで、コブシを握り締めた私、
その酢豚を睨みつけ、心の奥で無念の声をあげる。
「あなたは、いつから、浅ましく成り下ったのだ!」
そしてふと、我に返った私、件の、中華屋におもむく。
壁のメニューを仰ぎ見る。
酢豚が最右翼にいない。
最も高価な主役ではなくなっている。
<なんとかロースー>だの
<パイコーなんたら>だのが、出世している。
そこで、心の大声をあげる。
「あなたは、あなたのプライドをどう考えているのですか!」
そして、心の声は続くのだ。
「私の酢豚はどこに行ったの?」