「サイン頂けます?」
とある料理屋の女将に、色紙を差し出された。
『あいよ』
同時に差し出された筆ペンで、サラサラサラと名前を書く。
日付を入れる。
お店の名前を入れる。
持ち歩いていた自前のハンコを朱肉で捺す。
「あ~らまあ、見事な達筆だこと、おほほ」
女将が、無理に褒めてくれる。
「きんちゃんは、お元気ですか?」
(
きんちゃんって誰だろう?)
ま、ここは適当に相槌を打つ。
『ええ、元気ですよ』
しばし、色紙を眺めていた女将。
「すみませんけど、裏にお名前を書いて頂けませ~ん」
(ふ~ん、読めなかったんだ)
『あいよ』
スラスラスラ、筆ペンで、丁寧に書く。
しばし、裏を眺めていた女将。
「すみませんけど、フリ仮名うって貰えませ~ん」
(ふ~ん、まだ読めなかったんだ)
『あいよ』
思いっきり楷書で、ひらがなを書く。
カチカチカチ
しばし、私のサインと私の顔を、見比べていた女将。
「あ~ら、本名は石丸って仰るのねぇ、見栄晴さん」
『・・・・・・・』