そばの花畑
岩手県は盛岡で、
名物<わんこそば>に挑戦したのであった。
一度挑戦したかったのだ。
わざわざ、ハンドル握って、高速をとばしてきたのだ。
わんこそばと云えば、何と云っても、
何杯食べられるか?
そして、一番のお楽しみは、最後の最後、
ソバを後ろから放り込む仲居さんのスピードを上回り、
椀のフタを閉める競争だ。
その動きは、テレビで、何度もお目にかかり、
予備学習だけはしっかり済ませてある。
よし!心のハチマキを巻いて、
いざ、わんこソバ屋のノレンをくぐった。
「いらっしゃ~い、さあさ奥へ!」
案内の手際よさに、早速身が引き締まる。
ドスンっと座らせられた場所は、長~い座卓の真ん中だ。
他に、5人ほどが座っている。
どうやら、我々6人が一組という事らしい。
「はいどうぞぉ~」
やがて、一人の仲居さんが、大きなお盆を抱えてやってくる。
その上に20個ほどのお椀が乗っている。
その一つ一つを、この6人に配ってくれるのだ。
(6人に一人か・・テレビでは確か、一人に一人だったな)
あらかじめ配られていたマイお椀を中空に差し出す。
すると、仲居さんがバチャっと、ソバを注いでくれる。
ジュルっと一口ですすり込み、
すぐにお椀を差し出す。
しかし、6人が競っているので、
すぐってワケにはいかない。
おまけに、お盆上のソバは
すぐになくなる。
なくなると、仲居さんは、そそくさと、奥に引っ込んでしまう。
次の品を取りに行ったのだ。
(え~と、今、何杯食べたかな?3杯か・・)
指を折っていると、仲居さんがやってくる。
皆、椀をあせって持ち上げる。
判で押したような食事行為が繰り返される。
これは、何かに似ているな・・
ああ、あれだ。
ツバメの親が捕ってきたエサを雛に与えている図だ。
我々が、お椀を必死で差し出している姿は、
雛のピーチクパーチクなのだ。
力強く、高く差し出したお椀には、
やはり、すぐに入れて貰える・・ピーチク!
たらたらしている人のお椀には、
なかなか入れて貰えない・・パーチク!
そして、何度目の仲居さんの行き来だっただろう。
だんだん
待ち時間が増えてきた。
あれれ、テレビで見たヤツだと、
この辺で、仲居さんとの戦いが始まる頃なのにな・・
随分のんびりとしているなあ。
早食いに、待ち時間が組み込まれると、どうも分が悪い。
満腹感が襲ってくる。
もうやめようかとの誘惑の声。
結局最後まで、フタを閉める戦いは、演じられなかった。
あの演目は、別料金で、そういう申し込みをするらしい・・
という事を、後になって知った。
もう腹いっぱいじゃないか!
そういう事は、先に言ってくれ!おじさんおばさんが
少しだけいた。
東京から、わざわざ腹ペコでやってきたんだぞ、
どうしてくれるんだ!おじさんの戦歴は
<57杯>であった。