<北京ダック>
古今東西、様々な贅沢料理がある中で、
この名前だけは、別格である。
順位を付けようにも、もう、どうしようもないのである。
美味いとか、ベリーテイストとか、
形容詞が成り立たないのである。
この北京ダックとは、味わうモノではなく、
儀式だと思っていた。
中華料理のコースの中にあり、
高級感を引き立たせる
パフォーマンス的存在だと思っていた。
食べるフリをしてもいい料理だと思っていた。
一切れ、あわよくば二切れが、回ってくる
<おこぼれ頂戴>的なモノだと信じていた。
「皮だけ食って、あとは捨てるんネ!」
そんな、残念な思いをしたのは、私だけだろうか?
むしろ、あのデップリした肉を食ってみたい・・
そんな思いに、目の前で、皮だけ剥がれ
去ってゆく肉を睨み付けたのは、私だけだろうか?
とかいいながら、私は北京ダックの店にいた。
その店は、北京ダックの超有名店であった。
その証拠にこんな、証明書を渡されたのだ。
あんたが喰ったダックは
《
1億1518万4407匹目》 だけんね
ひえ~
確かに今、喰いましたですぅ。
皮だけでなく、身も、喰いましたですぅ。
ほんで、頭も出されたので、てらいもなく喰いましたですぅ。
舌も出されたので、食いましたですぅ。
コリコリして旨かったですぅ。
万頭に包むこともなく、ガツガツ
デップリした肉を喰いましたですぅ。
この証明書は何を訴えているのだろうか?
自慢せよ・・と奨励しているのだろうか?
ダック達を追悼せよ・・と促しているのだろうか?
それとも、喰った私に
反省をすすめているのだろうか?
うん、少しだけ、反省している。
食べ残したからね。
だって、その前まで食い続けていたんだもん。
ダックの舌
ダックの頭