「まだ、怪我人が出た事はありませんから~」
明るい口調で語る祭り関係者の言葉に乗せられ、
私は神社の境内にいた。
大分県の
奇祭を旅している私である。
この祭りだけは危険だという臭いを嗅ぎつけ、やってきたのは、
大分県、国東半島の国見町で、年に一回開催される
<ケベス祭り> だ。
ケベスの語源すら解らぬ、奇祭中の奇祭、ケベス祭りだ。
祭事の内容は、もし今後行かれる方の為に話すのは止めよう。
しかし、この祭りが何故、奇祭と言われるのかのお話はしよう。
一言で言うと、<火祭り>である。
いや、
大人の火遊びである。
1000年以上続いてきた
大の大人の火 ぶん投げ祭りである。
まず、始まる前の観客のイデタチが変だった。
頭に、
タオルを巻きつけ、着ている服が、お洒落着でなかった。
女性がツナギの服などを着ている。
え~それって常識・・?っと質問している間もなく、
突然、火は放たれた!
ボオオオオ~~!
山の様に積まれたシダの枯れ草に火を放ち、
ゴウゴウと燃え盛るその火の束を、棒切れで持ち上げ、
観客に向かって
走り回るのである。
走り回るのなら、まだいい。
観客の頭上に
火の粉を撒き散らし・・
観客の足元を炎で炙り・・
挙句の果てには、その真っ赤に燃え盛る
炎の固まりを投げつける!
ボオオオオ~~
ぎゃああ~~
この日は、観客が数百人いただろうか・・
それに対して、襲う人が20人以上・・
火の手がアチコチで揚がる。
黒澤映画<影武者>の炎上シーンを彷彿させる大火事である。
いや、大火事が起きているような錯覚に陥る。
さして広くない神社の境内に、人々が逃げ惑い、
ギャーギャー、きゃ~きゃ~、阿鼻叫喚の世界が現出する。
投げつけられる火の玉は、人の胴体ほどもある固まりだ。
それが、グレンの炎を上げているのだ。
驚きを通り越して、有り得ない現実に右往左往する。
逃げ回る人々も、最初のうちは、
ポーズで悲鳴を揚げていたのだが、
5分も過ぎると、本気モードの悲鳴に転調する。
必死で逃げ回っていた私・・
突然、本気モードの女性に、ムンズと後ろから、背中を掴まれた。
つまり、私を盾に取ったのだ。
降りかかる火から自分を守る為の、遮蔽物に
私を引っ掴んだのだ。
恐怖心におののく女性の腕力は、計り知れない。
「やめてください! 離してください!」
振りほどこうとする私の怪力など、物ともせず、
その女性は、私を火の盾にし続けたのである。
前からは、真紅の炎が襲ってくる。
後ろには、カンヌキが掛ったかの如く、彼女の手が背中を押す。
そもそも、祭りが始まる直前の、
ハンドスピーカーを口に当てたおいちゃんの掛け声が凄かった。
「入り口ンとこに置いちょる××××ナンバーの車の人、
すぐにどけんと、
火ィつけるデ!」