パドルボード
<見て覚える>
私の特技は、
見て覚える事である。
人に優れる要素が、余り無い私にとっては、
この特技は、貴重なのだ。
人は、他人から何かを教えて貰う折、
「さあ、やってごらん」
の言葉にのって、
やって覚える。
先生の
動きを、なぞって覚える。
ところが、私の場合、動かない・・
やらない・・
さあ、やってごらん・・と言われても、
ただただ、じっとしている。
先生がやっている行為をじっと見ている。
穴が開くように見ている。
その時何が私の中で起こっているかと云えば、
先生の動きを、頭の中で、反芻している。
なぞっている。
全く身体を動かす事なく、頭の中のみで動いている。
写真を焼き付けるのに似て、
映像を焼き付けている。
どれ位で、焼きつけられるのかと云えば、
基本的には、3回先生が繰り返してくれれば、
映像は、私の脳みそのDVDに記憶される。
あとは、そいつを自分の頭で再生させながら、
動きに模倣させていくだけだ。
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どういう話か全く解らない方の為に、具体的な説明をしよう。
「こうやって、紙をスキます」
和紙を作っている。
紙を漉いている。
水槽の中に、両手に抱えた四角い囲いを入れ、揺すったり
なびかせたり・・
先生が、その動作を教えてくれる。
「まあ、初回は難しいですが、やって見てください」
目を皿のようにして見ていた私が、取りつく。
バシャ・・バシャ・・
数回繰り返す。
「ああ~、お宅、昔、紙スキやってたんだね」
『いんえ、初めてですけんど』
「うそ付くんじゃないよ!」
先生は怒りだす。
先生が修業時代に、何か月も掛けた工程を、初めての人間が、
たった、数回で出来る筈がない。
馬鹿にするのもいい加減にしろ・・と憤慨するのである。
正確に正しく出来るのではないが、取りあえず形になるのだ。
これが私の持つ唯一の特技である。
しかし、
すぐ出来る特技には、当然
デメリットがある。
すぐ飽きるのである。
三日坊主という言葉があるが、
私の場合、
3時間坊主である。