<世界で一番辛いカレー>
この恐ろしい張り紙を見つけたのは、東京の池袋だ。
高速道路の高架の下にその店はあった。
本物のインド人がやっている、
本物のインド料理屋である。
最後の文章の<しみて 下さい>の部分に、
本物を感じてしまう。
それにしても、
世界で一番とは、
何をして、
世界で一番辛いと唱っているのだろうか?
辛いという舌の五感に、等級が付けられるのだろうか?
<辛い>という個人に任せられた曖昧さを、
数値化出来るのだろうか?
取りあえず、勇気を持って頼んでみる。
「アレ、下さい」
『はい、分かりました』
本物のインド人のウエイターから、流暢な日本語が返ってくる。
そう云えば、店先に張ってあった紙に、
これまでの挑戦者数と成功者数を書いてあったな。
刻々書き換えられている。
5000人余りが挑んで、
500人足らずが、完食したらしい。
30過ぎるまで、辛い物をいっさい受け付けなかった私である。
いい大人が寿司屋で、ワサビ抜きのマグロを食べていた私である。
『おまちどうさま』
出てきた・・
凄そうだ・・
持ってた勇気が、一気に萎えてゆく。
スプーンをズブリと差し入れる。
ヌチャっという感触が伝わってくる。
やっぱ止めよう・・
老後の健康が頭をよぎる。
しかし、作って貰った手前、一口はいただかないと・・
そ~と、スプーンを近づけ、ほんの耳かき程度の紅い物体を、
舌に載せる。
(ん・・?別にどうってこたないじゃん・・)
っと、次の瞬間、
ドッカアアアア~~~ン!!!!
延髄から後頭部に、針が突き抜けた!
心臓に十字架を打ち付けられた吸血鬼が、
恐らくこんな顔をするだろう・・という顔になった。
耳かきでコレである。
完食っちゃ、どげんこつネ!
「世界一辛いとは、なぜ、そう言えるのですか?」
本物のインド人の店主が、
その赤黒い物体を見せながら教えてくれた。
『世界一辛いトウガラシを使っているからです』
ふむ・・?
では、その唐辛子は、誰が世界一辛いと判断したのだろう?
世界一辛い唐辛子 ジェロキア