昔から一度やってみたかった事がある。
30数年来の悲願と言ってもいい。
<
アンコウの吊るし切り>
テレビなどで、目にする度に、アレをやってみたい!
と、願い続けてきた。
昨日の事だ。
魚市場を闊歩していると、そいつが目に飛び込んできた。
<ちょうちんアンコウ>
深海に棲むブサイクの代表である。
これまでも、何度もお目にかかってきた筈なのに、
昨日は、私の頭の上に電球が灯った。
《こいつは、私に吊るされたがっている》
「このアンコウ下さい」
『ほいな、捌きましょうネ』
「いや、このままで」
一匹のまま、丸まま買ってしまった。
今、一匹と言ったが、アンコウの場合、<一頭>と呼びたくなる。
2,8kg、61㎝のアンコウ。
まずは、写真を撮ろうと思い、皿に乗せたが、身体がはみ出し、
二枚の皿に跨ってしまった。
さあ、念願の
吊るし切りだ。
S字カンに、下顎を引っかけて、ぶら下げる。
う~む、だらしない格好だ。
親には見せられない姿になった。
さてどうしたものか・・
テレビでは、確か、口から水を大量に注ぎ込み、
腹が膨れ上がった状態で、切り刻んでいたナ。
マネをして、水を口からドボドボ入れた。
っと思いきや、ドバドバ~腹の横から漏れてきた。
魚屋さんが、ご丁寧に腹を裂いて内臓を
部分処理してくれたらしい。
う~む、残念・・水攻めは次回に委ねよう。
でだ、
どこからどうしよう?
出刃包丁を取りあえず、背中に突き刺した。
骨の線に沿って、尻尾の方向に裂いてゆく。
ところが、奴は、ブヨブヨしている上に、
吊るされているものだから、
包丁の刃がすんなりとは、入らない。
左手で、奴のブヨブヨを掴み、
無理やり包丁を動かしてゆく。
やがて、肉塊が、ボタリボタリと、落下していった。
アンコウとは、ブリブリのコラーゲンの塊である。
いわゆる、魚の脂ギトギトではなかった。
むしろ、さっぱりとした接触感とでも言おうか、
非常に柔らかい弾力ある
ゴムを触っている気がした。
途中で、大きなこぶし大の肝が採れた。
捨てる部分は殆どなかった。
硬い歯が危険なので、捨てたくらいである。
目玉から、尻尾の先まで、皆食べられる。
そうそう、胃袋も採取した。
体重2,8キロなのに、人間の胃袋ほどもあった。
大食漢である。
アンコウにインタビューをすれば、大口開けて、
趣味は食事と答えるだろう。
ざっと、10人前の肉塊が採れた。
解体の一部始終をホームビデオで撮影した。
いつか、欧米人がこのビデオを見たら、
東洋の残虐殺戮として、
アンコウは、クジラ同然の扱いになるかもしれない。
「わし アンコウ」