おいらは、船長である。
アチャラの言葉に直すと、スキッパーである。
2級船舶免許を持っている私は、船を操縦出来る。
昨日も、友人の漁船を借りて、海に出た。
目的はただ一つ、旨い魚を釣るのである。
最近の漁船の近代化は、素晴らしく、
<魚探(ぎょたん)>という武器が付いている。
船から音波を発して、魚がどこにどのくらい居るか・・
一目瞭然にしてしまうのである。
当然海底の形も丁寧に教えてくれる。
それどころか、自分のいる位置も正確に解る。
ところがだ、私の運転する船は、小型のボロっちい船だ。
魚探などありはしない。
魚のいる場所は、自分の勘で見つけなければならない。
以前釣れた場所を、覚えておかなければならない。
さあ、どうやって覚えるか?
陸地にある、建造物や、山で、
見通しを立てるのである。
例えば、西の方向にある<煙突>が、
その後方の<神社>と一直線である。
又、北を見ると、<橋げた>が、
その後方の<マンションの壁>と一直線である。
その
二つの見通し線の交わった箇所が、ポイントになる。
以前、この場所で、大きなサバとアジが釣れたのだ。
きっと、この下の地形が、彼らが好む場所なのだろう。
すべては、想像である。
船長の腕いかんで、本日の釣果が決まる。
「あの時は、
51㎝のサバが釣れたナ」
つぶやく船長の口元には、早くもヨダレが垂れている。
イカリを降ろし、船を固定すると、
さっそく釣り糸を、海底に沈めてゆく。
魚探はなくとも、水深は48mだと解った。
テグスに1mごとに、メモリーが打たれているのだ。
寒風なんのその、じっと海底に思いを馳せる。
きっと、今頃、大きなサバ共が、バラバラと捲かれた餌に
興味を示し始めたに違いない。
ここは、東京湾のど真ん中。
ナン十万トンのタンカーが行き来する。
でっかいフェリーが、波を蹴立ててゆく。
おお!真っ黒い頭だけ出して、
水しぶきを挙げているのは、潜水艦ではないか!
君らに比べたら、私の船は、ゴマ粒だな。
ほんでも、船長には変わりないな。
鼻歌が風に流されてゆく・・
うわあ~きたあ~!
突然竿が、満月のように曲がった。
もの凄い引きである。
テグスが、どんどん出ていく。
必至で撒くのだが、出ていく方が多い。
こいつは大物だぞ!
竿がミキミキと軋む。
相手は何という魚だろう?
引きから推察すると、青魚系の暴れ方である。
長い長い時間が過ぎたように感じられ、
やがてその魚は、浮いてきた。
私は、絶叫していた。
「
サバだあああああ~!」
ずしりとタモに収まったその大サバは、
体長
54㎝のマルマルと太った銀色の腹に青空を映していた。
もし、カモメが私を観察していたら、
ヨダレが、波間に飛び散るのを見られたものを。