
で、正也さんの葬式が始まった。
いきなり、こんな始まりでいいのかな?
っと思うのだが、正也さんの葬式は、いきなり始まる。
なんたって、私の父親は
せっかちな人だった。
それはそうだろう、
せっかちな私の父親である。
その本人の葬儀が始まったのだ。
93歳の人物の葬式であるから、
おのずとそこに参列される方の平均年齢は上がる。
従って穏やかな葬式になる事が予想された。
誰もがそう思っていた。
喪主は、私の兄のマコトだ。
通常の葬式では、喪主側の人間は、イスに座って、
静かに鎮座している。
その前を列席者が、腰を折りながら通り過ぎる。
喪主側は、けだるそうに、おじぎをする・・
この情景が、葬式のあるべき姿であろう。
イシマル家もそうしようと話合った。
斎場のアベさん(おくりびと)にも、賛同された。
そして、しめやかに葬式は始まった。
ところがだ・・参列者が現れるたびに、奇声が挙がる。
「ひえ~ひょっとして○○さん?!」
「きゃ~お久しぶりぃ!」
30年ぶり、40年ぶりの懐かしい方々が、
次から次に登場するのだ。
究極の同窓会状態である。
イスに座っていなければならない喪主側の人間が、
立ち上がって、あちらこちらと歩きまわる。
おくりびとアベさんが、その度に、3人兄弟の肘を引っ張る。
『どうぞ、イスにお座り下さい』
素直に
おくりびとアベさんに従う。
座る・・とすぐに、
「うわあ~○○さんじゃないですか!」
「アレえええ~何十年ぶりですかねェ?」
花火が散るごとく、喪主たちは、会場に散ってゆく。
『お願いです。座って下さい!』
おくりびとは、汗だくになる。
そうなると、
列席者がおじきをすべき位置にはカラのイスしかない。
誰におじぎをしているのか分からない。
『どうか、一人だけでもお座り下さい』
おくりびとは必至だった。
おくりびとは、当斎場の品位を落としたくなかった。
しかし、悲しいかな、
落とし続けるイシマル兄弟のフットワークに
おくりびとは、付いていけなかった。
この葬式を思うにつけ、私は閃いたのだ。
コレが、父親正也の結婚式だったら、
どんなに楽しかっただろうか・・と