伊豆大島と云えば、椿である。
寒い季節、暖かさと椿の森に憧れて、伊豆大島に渡る。
神奈川県の久里浜から、高速船が就航している。
船体を水面から浮き上がらせ、
時速80キロでぶっ飛ばすカッコイイ奴だ。
その伊豆大島で、ずいぶん昔、
2時間ドラマを撮影した事があった。
犯人は、イシマルであった。
最後の最後は、山頂の噴火口の近くで、
お縄となったのである。
時代劇でないから、お縄ではなく、
手錠となったのだが。
「は~い、カットぉ~」
監督の大声で、撮影は終了した。
手錠をかけたまま、皆に挨拶をする。
『お疲れ様でした・・お疲れ様でした・・』
一通りの挨拶を終え、
撮影用の手錠を嵌めてくれた助監督の姿を探す。
彼が、キーを持っているのである。
『○○君、キー頂戴!』
「ああ、○○はね、確か飛行場まで、役者を送っていったよ」
ガ~~~ン!
なんですと!
するってえと、私は、
手錠に繋がれたままですかぁ?
この山頂、すっごく寒いんですけんど、
上着を着ようにも、袖が通せないですけんど・・
トイレに行きたくってしょうがないんですけんど、
これじゃ行けないですけんど。
『誰か、
ヘアーピン貸して下さい』
女性スタッフに、問いかけた。
「どうするんですか?」
『スパイ映画みたいに、ヘアーピンで開けるのさ』
撮影用の手錠は、警察のモノと違って、
簡単な造りになっているに違いない。
借りたピンを鍵穴に差し込む。
(ふむふむ、こうやって、ああやって・・ふむ)
カチャリッ
開いたあ!
それ以来、手錠開けの名人を名乗っているのだ。
のだ・・と吹聴していたら、
先日の刑事モノで、手錠シーンがあった。
『あっ、ソレ開けたげる』
気軽に、ヘアーピンを取りだした私。
手錠を見て、驚いた。
キーを差し込む入口が極端に小さくなっている。
ヘアーピンどころか、安全ピンでも入らないじゃないか!
時代の変化に、愕然と肩を落とした、務所帰りの私であった。
(いつ、務所に入ったんだ!)