
「よし、病院に行こう」
ついにその気になった。
身体の調子が悪くても、
なかなか腰が重たくて病院に行きたがらない私である。
しかし、この
フトモモの痛みは、すでに、2週間続いている。
原因は判明している。
40キロの重りを背負って、
神社の階段を10往復したからである。
何とかせねば・・
昨日の夜、一念発起して、病院行きを決めた。
ところが・・である。
病院に行くと決めた途端、フトモモの痛みが遠ざかる。
この場合・・
病院に行ったは良いが、先生に何と説明したらいいだろう?
「どこが痛いんですか?」
『それが・・どこも・・』
具合の悪い事、はなはだしい。
子供の頃から、<病院>と聞いただけで、
風邪や腹痛が治る身体を持っていた。
8度あった熱が、いっきに平熱に急降下する。
切り傷でさえ、病院と聞けば、血が止まった。
であるが故、病院での私の居方が難しい。
すでに
痛くなくなった足を、
引き摺ったりしなければならない。
けだるさを演じなければならない。
痛くもない腹を押さえなければならない。
「そんな事しなければいいのに」と思うよネ。
だってね、それをしなかったばかりに・・・
数年前、食中毒であたった時だ。
七転八倒の苦しみを乗り越え、
病院に着いた途端、例によって、痛みがなくなった。
待合のイスで、鼻歌まじりに、文庫本を読んでいたのだ。
その姿をお医者さんに見られたらしい。
で、診察がいとも簡単だった。
「お帰りください」
健康体の診断で、送り出されたのである。
外に出た途端、苦しみだした私は、
再び、別の病院に駆け込んだ。
今度ばかりは、演じる事を忘れなかった。
文庫本は、カバンにしまい、腹を抱え続けた。
額にシワを寄せ続けた。
その結果どうなったか?
診察室に通されるや否や、
医者が看護士を呼びつける。
「
ただちに、入院!」