
(あれっ、歯ブラシが無い!)
そこは、羽田空港の待合だ。
チケットを受けとったまでは、良かった。
ところが、今、カバンの中をゴソゴソやり、
歯ブラシを探しているのだ。
確か、コッチに入れた筈だが・・
いや、ソッチかな・・
私のカバンは、ポケットの多さが自慢だ。
というより、ポケットの多さに惹かれて買い求めたものだ。
ところが、カバン内失踪品を探すには、困難なしつらいである。
2泊分の様ざまな、道具や衣服が詰まっている。
たかが、歯ブラシを探す為に、それらのモノを、
待合のイスの上に、ぶちまけるワケにはいかない。
奥のポケットに手を突っ込んで、探していたら、
チクッ!
爪の間に、ブラシの毛が刺さった。
痛ってえ~!
よんこらしょと、ブラシを引っ張り出す。
ん・・?なんだ?
2本、同じブラシが出てきた。
少しでも荷物を減らして旅行しているってのに、
なんとも悔しいブラシの搬送だこと・・
そんな事より、歯ブラシだ。
歯ブラシ・・歯ブラシ・・
その時だ!
私の頭の上に、電球が灯った!、
《おお、ココは空港ではないか!》
アレがあるではないか!
カバンを引っつかみ、搭乗検査場に向かう。
「ハサミ、ペットボトル、パソコンは御座いませんか?」
お決まりの言葉を聞きながら、ゲートをくぐる。
くぐった所で、
X線機械の後ろを覗き込む。
そこには、係り員が、私のカバンの中を透かし見ているのだ。
そのX線画像を、盗み見るのである。
3秒ほどの猶予タイムであった。
あった!
見えた、見えた!
右側のペンの横に、
歯ブラシの形が浮かんでいる。
「はいどうぞ」
出てきたカバンを早速、開き、
目的の箇所、今見えた箇所に手を突っ込む。
おお。あった!あった!
小喜びしながら、ふと考えた。
結果的にではあるが、
たかが、
歯ブラシ如きの捜索に、
ハイジャック防止の高価なX線機械を利用して良かったのかナ?