
「イシマルさん、最近、山にばっかり登って、
登山家になったんですか?」
いえいえ、海にも入っているのだ。
風さえ吹けば、ウインドサーフィンで、疾走している。
一昨日の強風は、アドレナリンがジャボジャボ出た。
出過ぎて、初心者のような失敗をしてしまった。
《ダンパーに巻かれる》
ダンパーとは、波打ち際で崩れる大波の事である。
時には、自分の頭より、高い波が炸裂する。
海の遊びに興じる初心者にとっては、
波打ち際は、危険地帯とも言える。
繰り返し襲ってくる大きな波をどうやって越えていけばいいのか?
途方にくれる初心者を尻目に、中級以上のウインドサーファーは、
いとも簡単に、沖に出てゆく。
悔しさのあまり、初心者は悪態をつく。
「なんだよ、ダンパーってえ?何語だよぉ?」
『あははは』笑いながら、
実は、上級者も良くは知らない。
聞こえないように、小さい声でつぶやく。
「ダンパーって、どういう意味だろ?」
それでも、初心者は果敢にダンパーに立ち向かう。
立ち向かっては、波に巻かれる。
この《
波に巻かれる》という行為が危ない。
人が、
何も道具を持たずに、
波に巻かれる時は、大した事態にならない。
ところが、
道具と共に巻かれると、
巻かれ方によっては、たいした事態となる。
水深、30センチしかない波打ち際で、セールの下敷きになり、
出てこられない・・なんて馬鹿な話が起きる。
水の圧力は、それほど強烈だ。
道具自体が、グシャグシャに壊れる様も、時折見かける。
で、一昨日の私だ。
なんとなく、ダンパーの前に立った。
一瞬の空白の時間があった。
ハッと気付くと、目の前に反り立つ
水の壁があった。
その壁が、スローモーションで私に迫ってくる。
(コレは、夢だ)
脳味噌が、逃避思考に走る。
(逃げよう)
の(にげ)の辺りで、水が、
ドッカ~~~ン!!
ジャボジャボグシャグシャ~!!
上下左右前後も解らず、海水に翻弄された。
ドラム式洗濯機の中に人が入ったら、あんな感じだろうか?
気が付くと、友人たちが走り寄り、
私の身体を、波の中から、引っ張り上げてくれる。
道具を砂浜に、引き上げてくれる。
こんな時に吐くセリフは、決まっている。
「し・死ぬかと、思った!」
『イシマルさあん、ダンパー巻かれたんだって?』
「・・・・」
『溺れたんだって?』
「・・・・」
『下敷きになったんだって?』
「・・・・」
その夜、いつまでも、耳の穴から
砂がほじくれた。