「大海に一本の針を捜すかのようだ」
よく聞く言葉である。
つい先日、そんな経験をしてしまった。
現場は、<仙丈ヶ岳>である。
まずは、冒頭の写真を見て欲しい。
下にある
丸いピンが問題の物体だ。
このピンが上の棒の穴に入って、金属と金属を繋いでいる。
その繋がれているモノは、私のリュックだ。
リュックの大事な一箇所を繋いでいる物体が、
この<リングピン>なのだ。
さて、私は、標高2800mを超えた雪渓を登っていた。
10mを超える風と雨に、晒されていた。
寒かった。
「よし、防寒着を着よう」
立ち止まり、リュックをおろそうとしたその時、
ガシャンッ!
リュックの肩掛けがバランバランになった。
「えっ、どうなったの?」
地面を見ると、冒頭の写真の上の<棒>が落ちている。
ふむ、と云う事は、リングピンがどこかにある筈だな。
辺りを見回す。
無い。
数メートル四方を探す。
無い。
それ以上は探せない。
なぜなら、切り立った稜線に私がいるからだ。
つまりは、崖っぷちを歩いているからだ。
しかし、ある疑問が湧く。
そのリングピンは、
今、外れたのだろうか?
構造的に考えると、
5分前に外れていた可能性も成り立つ。
30分前でもおかしくない。
2時間前という仮説も成り立つ。
「よっこらしょ!」
なにはともあれ、リュックに応急処置をして、
頂上を目指した私は、その3時間後、
あまりの驚きに口をパクパクする羽目になる。
下山中、2600m辺りだろうか・・
(この登山は、行き帰り同じ道を通る)
ふと、目を道のはずれに転じた。
ん・・・?
何か小さなモノが・・
近寄ってみる。
おおおおおおお~~~!!!!
こ・こ・これは!
り・り・リングではないか!
あ・あ・あの
リングピンではないか!
大海に落ちた一本の針を捜すと云うが、
まさにまさに、その例え通り、大きな山の山中に、
直径1センチの小さなピンを、見つけたのだ。
「そんなの、行き帰り同じ道なら、見つかるでしょ」
と口を尖らしたアナタ。
あのね、
山道は、舗装道路ではありませんゾ。
試しに、山道の10m以内に、このピンを私が置いて、
「さあ、探してごらん?」と促したとする。
10分以内にアナタが見つけたとしたら、皆が拍手をするだろう。
さほど、山道は荒れている。
そんな荒れ道のどこにあるかも解からず、
しかも、探してもいなかった直系1センチのピンが、
見つかったのだ。
これをして、人は、
偶然と云う言葉で片付けてもいいのだろうか?
いいのだろうか!
え~と、たぶん、いいんでない。
だって、それ以外、ないもん。
あ~びっくりしたあ!