~昨日の続き~
30年以上前の話である。
あるビルに
住み込みで働いていたのである。
そのビルには、、ボイラー室が地下にあったのである。
そして、何故か、
住み込みの部屋が、ボイラー室の隣にあったのだ。
隣という言葉を正確に伝えると、5センチの壁を隔てた隣である。
部屋そのものは、3畳間。
さて、ボイラー室が隣にあると・・どうなる?
ボイラーってヤツは、基本的に
サーモスタットで動いている。
サーモスタットを知らない人の為に補足すると、
ある一定期間作動すると、
突然スイッチが切れるシステムだ。
という事はつまり、ある一定期間静かにしていると、
突然スイッチが入るシステムだ。
はい、アナタがこの3畳間にいるとしよう。
(さあ、眠ろうかなあ)
っと、この瞬間、スイッチが入る。
ブイイイィィイイィィイイ~~~ン!
ケタタマシイ音量が響き渡る。
どのくらいケタタマシイかと云うと、
その部屋内で、会話は成り立たない。
筆談が必然である。
私も筆談で会話をした。
おまけに、ボイラーの凄まじい振動が伝わってくる。
初めてこの部屋に入った人間は、
「スワっ、地震だ!!」
大騒ぎして跳び出す。
私も、紛れもなく跳び出した。
やがて、人間は慣れてくる。
眠ろうとして、布団にもぐり込む。
うとうと・・・
バスウウゥゥン!
心臓が止まるかと思うほどの衝撃を残し、
ボイラーが止まる。
スイッチが入る時の衝撃も凄まじいのだが、
突然、切れる時の衝撃をどう表現しようか・・?
登っていた梯子を、思いっきり足払い食らったとでも言おうか・・
イヤホンで聞いていた大音量の音楽を、
いきなり、イヤホンをむしり取られたとでも言おうか・・
目が覚める。
しかし・・
しかしである。
人間は偉大だ。
慣れる動物だ。
私も動物だ、慣れた。
その大音量と振動、さらに、その停止。
すべてに慣れた。
ぐっすり眠れるようになった。
私は、イビキで対決出来るほどになった。
そんなある日、友人が訪ねてきた。
「すまん、
帰れなくなったんで、泊めてくれる?」
『いいよ』
マイルームに案内した。
30分後・・
友人が、真っ赤な顔をして、私に怒声を浴びせる。
「ふざけんナ!」
帰れなかった筈の彼は、衣服を掴み、夜の街に跳び出していった。
残された私は・・
・・・そのまま夢の中に落ちていったのだった。